伊藤三郎

伊藤三郎：革新市政を築いた川崎市長

伊藤三郎（いとう さぶろう）は、1920年3月29日に生まれ、1997年10月16日に没した日本の政治家です。彼は、神奈川県川崎市長を第7代から第11代まで連続5期務め、全国革新市長会会長も歴任しました。その政治人生は、公害対策と福祉政策に力を注ぎ、川崎市を住みやすい都市へと変貌させたことで知られています。

生涯と政治家としての出発

千葉県成田市で生まれた伊藤は、早稲田高等工学校（現早稲田大学）を卒業後、逓信省航空局に入省。第二次世界大戦での兵役を経て、戦後の1951年に川崎市役所に就職しました。技術吏員からスタートし、職員組合委員長、労働組合連合会委員長、自治労神奈川県本部委員長などを歴任し、労働運動のリーダーとして頭角を現しました。

1971年、伊藤は日本社会党・日本共産党の推薦を受け、川崎市長選挙に出馬。7期目の当選を目指していた保守系の現職・金刺不二太郎を破り、見事初当選を果たしました。当時の川崎市は、公害問題が深刻化しており、厚生省の調査で「日本一の大気汚染地帯」と評されるほどでした。伊藤は「青い空、白い雲」をキャッチフレーズに掲げ、公害対策を訴え、市民の支持を得ました。また、当時の革新自治体ブームや、金刺の多選批判も追い風となりました。

川崎市長としての実績

川崎市長に就任した伊藤は、公害対策に積極的に取り組みました。1972年には、全国で初めて二酸化炭素の総量規制を盛り込んだ公害防止条例を制定。1974年には、公害病認定患者に対する川崎市独自の補償制度を新設し、1977年には環境アセスメント条例を制定するなど、画期的な政策を次々と打ち出しました。

また、「母と子と老人を大切に」をスローガンに掲げ、福祉政策にも力を入れました。川崎市内各地に「老人いこいの家」（長寿ケアホーム）を設置し、保育所も「1万人に1ケ所」を目指して建設が進められました。これらの政策は、市民から高く評価され、伊藤市政を支える大きな力となりました。1985年2月には「指紋押捺拒否者告発せず」を決定し、大きな反響を呼びました。

1987年の川崎市長選では、自由民主党推薦の永井英慈を破り、5選を果たしました。しかし、5期目の任期途中の1988年には、川崎市助役への1億円利益供与疑惑に端を発するリクルート事件が発覚し、関係者への解職処分を行いました。翌1989年10月、伊藤は任期途中に川崎市長を病気辞任しました。

リクルート事件と辞任

リクルート事件は、伊藤の政治生命に大きな影を落としました。事件への関与は明確にはなりませんでしたが、道義的責任を問われ、辞任へと追い込まれました。しかし、伊藤が築いた革新的な市政は、後継者の高橋清に引き継がれ、さらに発展していきました。

死去と遺産

1997年10月16日、伊藤三郎は心不全により川崎市内の病院で死去しました。享年77歳でした。彼の死後も、川崎市は公害対策と福祉政策を重視する姿勢を維持し、住みやすい都市としての地位を確立しています。伊藤三郎は、川崎市の歴史において、その名を深く刻んだ政治家として、記憶されることでしょう。

著書

* 『ノミとカナヅチ－人間都市づくりの10年』（1982年7月、第一法規出版）

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