伊達晴宗

伊達晴宗：戦国時代の激動を生き抜いた伊達氏の当主

伊達晴宗（だて はるむね）は、戦国時代の陸奥国（現在の福島県）を治めた大名であり、伊達氏の15代当主です。かの有名な伊達政宗の祖父にあたる人物で、その生涯は激動の時代を反映するように、波乱に満ちたものでした。

生涯

1519年、伊達氏14代当主・伊達稙宗（たねむね）の長男として生まれた晴宗は、1533年に室町幕府12代将軍・足利義晴から偏諱を受け、晴宗と名乗りました。

天文の乱

1542年、父・稙宗が勢力拡大のため、越後国守護・上杉定実の養子に弟の時宗丸（後の伊達実元）を送り込もうとしたことが、晴宗との対立を深めるきっかけとなります。さらに、稙宗が義兄の相馬顕胤に伊達領を割譲しようとしたことにも反対した晴宗は、重臣たちと共謀して父を西山城に幽閉。実元の養子縁組を阻止しようとしました。

しかし、稙宗は小梁川宗朝によって救出され、奥州諸侯を糾合して晴宗と争う構えを見せたため、「天文の乱」が勃発しました。当初は稙宗方が優勢でしたが、1547年に蘆名盛氏が晴宗方に寝返ったことで形勢が逆転。1548年、足利義藤の停戦命令を受け、晴宗方が優位な状況で和睦が成立しました。晴宗は家督を相続し15代当主となり、稙宗は丸森城に隠居することになりました。しかし、実際にはその後も父子の不和は収まらなかったとされています。

家督相続と統治

当主となった晴宗は、本拠を米沢城に移し、天文の乱で動揺した家臣団の統制に着手します。1553年には「晴宗公采地下賜録」を作成し、乱中に乱発された安堵状を整理、家臣の所領と家格を確定させました。また、和睦を不服として抗戦を続けた懸田俊宗・義宗父子を滅ぼすなど、領内を安定させるための政策を次々と実行しました。

しかし、天文の乱で功績のあった中野宗時らの重臣には、守護不入権などの特権を与えざるを得ず、晴宗政権は宗時らを中心に運営されることとなりました。晴宗は6男5女と多くの子に恵まれましたが、その縁組は岩城氏、二階堂氏といった有力大名との関係強化だけでなく、一族や重臣との結びつきを強めるためのものでもありました。

奥州探題就任

1555年、晴宗は幕府から奥州探題に補任されました。これは、伊達氏の家格が上昇したことを示すとともに、従来の幕府の地方統治方針を変更するものでもありました。ただし、正式な奥州探題職の創設と晴宗の任命については、幕府も慎重な手続きを採用したため、1559年までずれ込んだという説もあります。

隠居と晩年

1565年、晴宗は二男の輝宗に家督を譲り、信夫郡杉目城に隠居しましたが、依然として家中の実権を握っていました。しかし、輝宗との対立は深まり、1570年には中野宗時らが追放され、実権は完全に輝宗の手に移ります。その後、父子の関係は改善され、晩年には孫の梵天丸（後の伊達政宗）が和歌を披露する宴を催すなど、穏やかな日々を送ったと伝えられています。

1578年、杉目城で死去。享年59歳。

人物・逸話

晴宗は、正室である久保姫との結婚において、強引な手段を用いたという逸話が残っています。久保姫の美貌に惚れ込んだ晴宗は、彼女が別の武将に嫁ぐ行列を襲撃し、連れ去って正室にしたとされています。しかし、夫婦仲は良好で、久保姫は晴宗の死後、宝積寺を建立して夫を供養しました。

また、晴宗は、父・稙宗とは対照的に側室を持たず、一族や重臣との婚姻を進めて家中の統制に留意した人物であったと考えられています。これは、父の外交政策との違いを示唆するものであり、天文の乱に至る背景には、父子の性格の違いもあったのではないかという見解もあります。

後世の評価

江戸時代に入り、伊達騒動を経て仙台藩で藩史編纂が盛んになると、晴宗は「暗君」として描かれるようになります。これは、輝宗が顕彰された一方で、輝宗と対立した晴宗が否定的に見られたこと、そして、晴宗が御家騒動のきっかけを作った人物として捉えられたことなどが理由として挙げられます。また、晴宗を支えた中野宗時、桑折景長は「姦臣」とされ、天文の乱は彼らに唆された結果とされました。

系譜

父：伊達稙宗（1488-1565）
母：泰心院 - 蘆名盛高の娘
正室：久保姫（1521-1594） - 栽松院、杉目御前、笑窪御前、岩城重隆の長女
主な子女：
長男：岩城親隆（?-1594） - 岩城重隆の養子
長女：阿南姫（1541-1602） - 二階堂盛義正室
次男：伊達輝宗（1544-1585）
三男：留守政景（1549-1607） - 留守顕宗の養子
四女：彦姫（1552?-1588） - 蘆名盛興正室
五女：宝寿院 - 佐竹義重正室

まとめ

伊達晴宗は、戦国時代の激動期を生き抜いた大名であり、父との対立、家臣団の統制、奥州探題への就任など、様々な出来事を経験しました。後世では「暗君」と評されることもありますが、その生涯は、戦国大名としての苦悩と葛藤を示すものであり、日本の歴史を語る上で欠かせない人物の一人と言えるでしょう。

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