伊那電気鉄道の電車

伊那電気鉄道の電車

伊那電気鉄道は、現在のJR飯田線の一部を構成していた鉄道会社です。その歴史の中で、軌道法に基づく路線から軽便鉄道法準拠の路線へと発展し、それに伴い、様々な電車が活躍しました。本稿では、伊那電気鉄道が保有した電車について、その詳細を解説します。

概要

伊那電気鉄道は、1909年に伊那電車軌道として開業しました。当初は軌道法に準拠した路線として、辰野 - 松島間が開通。その後、1911年には伊那町まで延伸しました。伊那町以南は軽便鉄道法に基づき建設され、1927年に全線が開通しました。

1919年には社名を伊那電気鉄道に変更し、1923年には辰野 - 伊那町間を地方鉄道に変更、架線電圧を600Vから1200Vに昇圧しました。この昇圧を境に、伊那電気鉄道の車両は大きく2つに分類できます。昇圧前は路面電車規格の2軸車が中心でしたが、昇圧後はボギー車が導入されました。また、自社で車両製造能力を有しており、他社向けの車両も製造していました。

1943年、伊那電気鉄道は戦時買収により国有化され、飯田線の一部となりました。買収時点では、電気機関車9両、電車29両、貨車51両が在籍していました。

昇圧前の車両

昇圧前は、2軸電動客車14両、ボギー電動客車3両、2軸付随客車5両、2軸電動貨車6両の計28両が使用されていました。

電動客車

1 - 3：1909年製造の2軸電動車。前面3枚窓が特徴。定員38名。
1, 2(?) → 7, 8：1911年製造の2軸電動車。定員37名。初期の番号は重複していた可能性。
4 - 6 → 6 - 8（2代）：1914年製造の2軸電動車。モニター屋根が特徴。定員37名。昇圧後廃車。
10 - 12 → 9 - 11（2代）：1917年製造の2軸電動車。定員37名。長州鉄道に譲渡。
13 - 15 → 12 - 14（2代）：1917年製造の2軸電動車。定員44名。銚子鉄道に譲渡。
ホ1 - ホ3：1920年製造のボギー車。定員80名。昇圧後付随車化。

付随客車

1：1909年製造の2軸客車。開業当初に用意されたが連結運転不可。
2, 3：1912年製造の2軸客車。1と同形。
29, 30 → 35, 36：1919年製造の2軸郵便荷物車。昇圧後、一部は貨車に転用。

電動貨車

1 → 4（2代）：1909年製造の電動貨車。自社工場で車体を載せ替えた可能性あり。昇圧後廃車。
2, 3 → 2（2代）, 4 → 3（2代）, 5：1914年製造の電動貨車。2,3は岡崎電気軌道へ、5は筑摩電気鉄道へ譲渡。
6：1918年製造の自社製電動貨車。昇圧後廃車。

昇圧後の車両

1923年の昇圧に伴い、電動車は全て新製のボギー車に置き換えられました。旧600V用電動車は一部を除き、使用停止となりました。1926年の改番により、電動客車は「デ」、付随客車は「サ」を冠するようになりました。

電動客車

デ100形・デ200形：1923年製造の両運転台式ボギー車。デ100形3両、デ200形5両。車体は共通だが、走行機器が異なる。買収後、富山港線へ移籍。
デ110形：1924年、1926年製造の自社製両運転台式制御電動車。3両。1両は三河鉄道へ譲渡。買収後、富山港線へ移籍。
デ120形：1927年製造の両運転台式制御電動車。5両。半鋼製車体。買収後、福塩線、富山港線へ。

附随客車

サ100形：1924年製造の木製付随車。二等三等郵便荷物合造車。買収後、救援車に改造。1両は土砂崩れで廃車。
サ110形：1926年自社松島工場製。サハフ312を改造、サ100形と共に直通運転に使用、買収後救援車に改造。
サ200形、サ300形→サ210形・サ220形：1920年製造の電動車を付随車化したもの。買収後、廃車。
サ310形：1926年製造の三等付随車。1両は改造され、もう1両は国鉄の車両復籍の種車となった。
サ400形：1929年製造の半鋼製三等荷物合造付随車。一部は制御車化され、交流直流両用試験に供された。

譲渡

買収後、多くの車両が他の鉄道会社へ譲渡されました。主な譲渡先は以下の通りです。

伊豆箱根鉄道
岳南鉄道
北陸鉄道
上田丸子電鉄
新潟交通
弘南鉄道

これらの車両は、それぞれの地で活躍し、一部は現在もその姿を留めています。

まとめ

伊那電気鉄道の電車は、その時代背景とともに様々な変遷を遂げました。軌道法準拠の小型車から、地方鉄道法準拠の大型車へと進化し、電化方式の変更とともに、車両も大きく変化しました。また、自社工場での製造能力を有していたことも、特筆すべき点です。これらの車両は、その後の日本の鉄道史にも大きな影響を与えました。

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