伏寿

伏寿（ふく じゅ）について

伏寿は、後漢の皇帝献帝の皇后であり、彼女の生涯は動乱の時代に翻弄されたものでした。彼女は徐州琅邪郡東武県、現在の山東省濰坊市諸城市に生まれ、名門である伏家の出身です。父伏完、母盈、兄弟には伏徳や伏典がいました。

若き日の伏寿

伏寿の運命は、初平元年（190年）に董卓が献帝を連れ長安へ移動させた際に、大きく変わります。このとき、彼女は皇帝の側室として生活を始めました。興平2年（195年）には正式に皇后として迎え入れられ、献帝と共に一時的な安定を得ます。しかし、同年の出来事が伏寿の運命に暗い影を落とします。

この年、献帝は李傕と郭汜に追撃されながら洛陽への帰還を試みましたが、戦闘中には多くの犠牲者が出ました。献帝は逃げるために黄河を渡ることを決め、後宮の女性たちも彼の後を追いました。伏寿はわずかな絹を持って旅立ったものの、途中で武官に襲われ、それを奪われてしまいます。安邑に到着した際、彼女の衣服は破れており、飢えをしのぐために穀物や果実を口にする状態でした。生き残った後宮の女性は彼女と一名のみでした。

献帝と曹操の時代

建安元年（196年）、献帝が洛陽に戻ると、家族や民衆の姿はかつての繁栄とはほど遠いものでした。曹操が献帝を支持するようになり、実権を掌握するようになると、宮廷内は曹操の影響下に置かれます。彼は周囲の人々を自分の取り巻きに衣替えし、古参の者たちは次々と排除されていきました。これに対抗する者たちに対して、曹操は容赦なく処分を下し、献帝もその暴力に恐れを抱くようになりました。

伏寿は、曹操の残虐性を目の当たりにし、父に対して曹操の圧力を伝え、対抗を要請しましたが、父は動くことを躊躇し、建安14年（209年）にそのまま亡くなります。

陰謀と悲劇

建安19年（214年）、伏寿が曹操暗殺計画の首謀者として疑われ、事態は急変します。曹操は献帝に伏寿を「廃后」とするよう要求し、皇后の身柄を拘束するために力を用いました。伏寿は逃れようとしましたが、華歆に引きずり出され、献帝との最後の会話では、「陛下、また御一緒に過ごすことができますでしょうか」と懇願しますが、献帝もその運命を共にすることができないことを悟ります。

最終的に伏寿は幽閉され、そこで命を落とします。彼女が生んだ二人の皇子に対しても毒殺が命じられ、伏家は壊滅的な打撃を受けました。これにより、曹操は自身の地位をさらに強化し、伏寿が存在した痕跡は歴史から薄れ行くことになりました。

伝説としての伏寿

『三国志演義』では、伏寿の曹操暗殺計画が描かれています。この計画は失敗し、伏寿自身も悲劇的な最期を遂げます。この物語は、中国の民間において「曹操の話をすると曹操が現れる」という諺の由来ともなり、その歴史的影響は今も語り継がれています。彼女の物語は、権力と悲劇が交錯する時代にあって、なお深い余韻を残しています。

もう一度検索