紫衣

紫衣（しい、しえ）

紫衣とは、紫色の衣服のことを指します。前近代の日本や中国、朝鮮半島などにおいて、高貴な色とされ、身分の高い者が着用を許されていました。原則として庶民や低い位の官吏は着用できませんでしたが、特例として着用が許されることもあり、その場合は名誉とされました。

日本における紫衣

日本において、高位者に紫衣を着用させる規定は、冠位十二階制の時代にまで遡る可能性があります。しかし、当時の史料には明記されておらず、断定はできません。大化3年（647年）の七色十三階冠では、大織と大繡が深紫、大紫が浅紫の服色を用いるよう定められました。この制度は、養老律令にも踏襲され、親王と一位の礼服・朝服の色は深紫衣、四世までで二位から五位までの王と、二位から三位までの臣下・五世王は浅紫衣と定められました。これより下の位の人々や、僧侶や尼僧を含む無位の人々にとっては、紫は着ることができない禁色とされていました。

奈良時代には、唐に渡った僧の玄昉が、唐でも高官にのみ許されていた紫の袈裟を玄宗皇帝から授与され、着用を許されました。帰国後、日本でも玄昉に紫の袈裟が与えられ着用しました。続いて天平神護2年（766年）には、称徳天皇が法花寺（法華寺）に仏舎利を収める際の行列参加者に紫衣の着用が許されました。また、特例として服色を紫にすることを許す勅は、宝亀8年（777年）に病気の佐伯今毛人に代わって急遽遣唐使を率いることになった小野石根・大神末足に対しても下されました。

一方で、五世王で五位だった豊前王が紫を着ていたことが糾弾され、緋色に改めさせられた事例もあり、禁色は厳格に守られていたことがわかります。

朝鮮における紫衣

朝鮮半島では、新羅が法興王7年（520年）に初めて服色の制度を定めた際、最上位の太大角干から大阿飡までが紫衣と定められました。新羅でも、臣下の中で最上位の者が紫を着用する制度が導入され、この制度は真徳女王2年（649年）に衣服を唐のものに改めるまで続きました。

脚注

参考文献

小島憲之・直木孝次郎・西宮一民・蔵中進・毛利正守校訂・訳『日本書紀 3』、小学館（新編日本古典文学全集 4）、1998年。
井上光貞・関晃・土田直鎮・青木和夫校注『日本思想大系 律令』、岩波書店、新装版1994年。初版1976年。
黒板勝美『日本三代実録 前編』、新訂増補 国史大系（普及版）、吉川弘文館、1971年。初版1934年。
武田佐知子『古代国家の形成と衣服制』、吉川弘文館、1984年。

関連項目

* 紫衣事件

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