伺候席

江戸城における伺候席：将軍への謁見と身分秩序

江戸時代、大名や旗本が将軍に謁見するため江戸城に登城する際、順番を待つ控席として設けられていたのが「伺候席」です。殿席、詰所とも呼ばれ、その位置は家格、官位、役職によって厳格に定められていました。大名家にとって、伺候席は自家の格式を示す重要な指標であり、幕府による厳格な序列が反映されていました。

伺候席の種類と詰める大名

大名たちが詰める席は、大廊下席、大広間席、溜詰、帝鑑間席、柳間席、雁間詰、菊間広縁詰の七つが存在し、それぞれに詰める大名は出自や官位に基づいて幕府によって定められていました。ただし、役職に就いた場合は、その役職に応じた席（例えば、奏者番は芙蓉間、大番頭は菊間など）に詰めることになっていました。

将軍の執務・生活空間である「奥」に最も近いのは「溜間」であり、次いで「雁間」、「菊間広縁」、「帝鑑間」と続きます。これらの席には主に譜代大名が詰めていました。官位や石高では大廊下や大広間の親藩・外様[[大名]]の方が上位に位置づけられていましたが、将軍との親疎関係によって、より奥の席に配置されることもありました。

大広間席、帝鑑間席、柳間席の大名は「表大名」と呼ばれ、五節句や月次のみ登城していました。

大廊下席は将軍家の親族が詰める部屋で、上之部屋と下之部屋の二部屋に区切られていました。上之部屋には御三家が詰めており、江戸初期には御両典（甲府藩、館林藩）も含まれていました。また、鷹司信平が松平姓を許されて上野吉井に一万石を与えられた際には、上之部屋に詰めることになりました（鷹司松平家）。下之部屋には加賀藩前田家が詰めており、初期には福井藩松平家、喜連川氏も同所に詰めていました（後に福井松平家は広間席、喜連川氏は柳間に移動）。江戸中期には、一橋徳川家から養子を迎えた福岡藩黒田家当主も大廊下席に詰めるようになりました。

大広間席は国持大名（国主）および准国持大名（准国主）が入る部屋で、四品以上の官位を持つ親藩や外様[[大名]]もこの席に詰めていました。

溜詰は黒書院溜之間（通称松溜）の部屋で、将軍の執務空間「奥」に最も近く、臣下に与えられた最高の席でした。代々溜詰を務める家系（定溜、常溜、代々溜）と、一代限り詰める家系（飛溜）がありました。老中を退任した大名が、前官礼遇として一代限り末席に詰めることもありました（溜詰格）。松溜は老中と諸役人の用談場所、評議場としても用いられ、溜詰は重要事項について幕閣の諮問を受ける立場にありました。江戸中期以降、飛溜の大名も代々詰めるようになり、幕末には定員が15名近くになり、その希少性も薄れていきました。しかし、幕末においても重要な評議の場として機能していました。

帝鑑間席は、幕府成立以前から徳川氏に臣従していた大名が詰める席で、この席に詰める大名は「譜代大名」と呼ばれていました。ただし、親藩や外様[[大名]]から願により移った大名（御願譜代）や、家格向上により移った大名もいました。

柳間席は五位以下の外様[[大名]]、交代寄合、表高家、並の寄合衆が詰める部屋でした。准国主でも五位の場合はここに詰めて、四品に昇進すると大広間に移っていました。

雁間詰は幕府成立後に新規に取立てられた城主格の大名が詰める部屋で、ここに詰める大名は「詰衆」と呼ばれ、毎日登城していました。老中の御殿巡回コースに含まれており、役職に就く機会が多かったため、帝鑑間から雁間への移動を望む大名もいました。「雁菊」という総称もありました。

菊間広縁詰は幕府成立後に新規に取立てられた無城の大名が詰める席で、大番頭などの旗本役の詰席でもありました。菊間（の本間）は雁間大名の嫡子の席とされていました。

御三卿の御控所

御三卿（田安家、一橋家、清水家）は将軍家の身内として特別扱いされ、大手門ではなく平川門から登城し、将軍の生活空間である中奥の御控所に入りました。これは将軍の最近親者としての特別礼遇でした。

席次と変更

これらの席次や官位は、各藩や幕府の都合により変更されることもありました。伺候席の配置は、江戸幕府の身分制度と政治状況を反映しており、その変遷は歴史研究において貴重な資料となっています。

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