佐々氏

佐々氏（さっさし/ささし/さざし）

佐々氏は日本の歴史に名を刻む氏族の一つです。その読み方には「さっさ」「ささ」「さざ」など複数の説があります。歴史的に著名な系統としては、尾張国（現在の愛知県西部）を拠点とした佐々氏と、肥前国松浦郡（現在の長崎県北部）を拠点とした佐々氏が存在します。

尾張国の佐々氏

尾張佐々氏の起源については諸説が存在し、定説は確立されていません。広く受け入れられている見方としては、近江源氏として知られる宇多源氏佐々木氏の一族とする説や、その庶流である六角氏の流れを汲むとする説があります。また、菅原氏との関連を指摘する説もありますが、これは佐々成政の父盛政が一時的に母方の菅原姓余語氏を名乗っていたことに起因すると考えられます。この系統から戦国時代の名将、佐々成政が出て、広くその名を知られることとなりました。

有力な系譜の一つによれば、鎌倉時代後期の六角泰綱の末子とされる佐々権僧都頼起（良輝）に始まるとされます。頼起の子、時綱が伯父である六角頼綱の養子となり、佐々氏を称したとされています。他にも、応仁の乱で六角氏に背き戦死した六角政堯の子、成義に始まる系図も伝えられています。一方、佐々木盛綱の子、加地信実の八男氏綱が上総国佐々庄に住んで佐々氏を名乗ったとする説もありますが、上総国に佐々庄の存在が確認されておらず、信憑性は低いと考えられています。

また、藤原氏を称していた可能性を示す説も存在します。かつて尾張国高田寺にあった大永5年（1525年）銘の梵鐘には、檀那として「比良佐々下野守藤原貞則」と刻まれており、この頃には藤原氏を名乗っていたことが示唆されます。この貞則は、織田信長（信定とも）の祖父である織田信貞から偏諱を受けた人物と考えられており、佐々成政らの父にあたる可能性が指摘されています。実際、佐々氏の子孫の中には藤原氏を称する家も見られます。

総じて言えるのは、戦国時代に名を上げた他の多くの武家と同様に、その正確な起源を明確に特定することは容易ではないという点です。

家紋

尾張佐々氏の定紋は「棕櫚（しゅろ）」でした。一方で、佐々木一族に共通する定紋「四目結（よつめゆい）」は、軍旗として用いられていたと伝えられています。棕櫚紋を使用するようになった謂れについては、天文14年（1545年）の小豆坂の戦いにおいて、佐々兄弟が抜群の戦功を挙げた際のエピソードがあります。織田信長（ただし年代的には信秀の可能性が高いとされます）が彼らを賞し、政次に酒盃を下賜した際、盃が棕櫚の葉の上に載せられていました。政次が酒を飲み干した後、その棕櫚の葉を鎧の背に挿して退出したところ、信長はこれを見て以来、棕櫚を家紋とするよう命じ、四目結を棕櫚に改めたとされています。

戦国時代から江戸時代、そして末裔

戦国時代には、佐々隼人正や佐々孫介が尾張国の戦国大名織田氏に仕え、小豆坂七本槍の一人として名を連ねるなど、勇将として活躍しましたが、相次いで戦死しました。彼らの弟である佐々成政がその跡を継ぎ、織田信長のもとで仕えました。織田氏が勢力を拡大していく中で、成政は主に北陸方面で重要な役割を果たしました。

信長が本能寺の変で急死した後、成政は羽柴秀吉と対立する道を選びました。柴田勝家や徳川家康らと連携して秀吉に対抗しましたが、天正13年（1585年）には本拠である越中国富山城を秀吉の大軍に攻められ降伏しました。その後、肥後国を与えられましたが、検地を巡る失敗から国人一揆を招き、天正16年（1588年）に秀吉の命を受けて切腹しました。成政には男子がいましたが早世し、後継ぎとなるべき直系の男子はいませんでした。佐久間勝之など数名の養子を迎えましたが、いずれも早世したり、実家に戻ったりしたため、佐々成政の直系の子孫は断絶しました。しかし、成政の兄弟の子孫や、娘を通じての末裔の中には、佐々姓を称した家も多く存在します。

江戸時代に入ると、佐々長成の子孫の系統が江戸幕府の旗本に取り立てられました。この旗本家からは、大坂町奉行を務めた佐々成意などの人物が出ています。他にもいくつかの分家が存在しました。

近代以降も佐々氏の系譜は続いています。佐々成政の姉のひ孫にあたる佐々宗淳（介三郎）は、時代劇『水戸黄門』に登場する助さんのモデルの一人とされています。政治家としては、明治時代の佐々友房、その子で昭和初期に活躍した佐々弘雄、そして弘雄の娘である紀平悌子（参議院議員）が知られています。また、作家や評論家としては、佐々弘雄の子である佐々克明、佐々淳行兄弟が著名です。

肥前国の佐々氏

肥前国の佐々氏は、松浦党の一派に属する氏族です。現在の長崎県北松浦郡佐々町を拠点とし、氏の名前はこの地名に由来しているため、「さざ」と読まれるのが一般的です。その存在を示す初期の記録としては、永徳4年（1384年）に作成された松浦党一揆承諾状の中に「佐々相」という名前が見られます。江戸時代に平戸藩が編纂した歴史書『家世伝』によれば、肥前佐々氏は文明年間（1469年～1486年）頃に平戸松浦氏の家臣となったと記されています。

異なる起源を持つ二つの佐々氏の系統は、日本の歴史の中でそれぞれ独自の足跡を残しました。尾張佐々氏は戦国時代の武将として名を馳せ、江戸時代以降もその系譜が続いた一方、肥前佐々氏は松浦党の一員として地域社会に根差した存在でした。

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