作曲家の個展 (ブリヂストン美術館)

ブリヂストン美術館『作曲家の個展』：日本の現代音楽を彩ったコンサートシリーズ

1952年、東京駅八重洲口のブリヂストン本社内に開館したブリヂストン美術館は、近代美術の展示や研究活動に加え、活発な教育普及活動にも取り組んでいました。「土曜講座」を始めとした様々な企画が実施され、その中には音楽に焦点を当てたプログラムも含まれていました。

美術館が開催した音楽関連の事業としては、「レコードコンサート」、「音楽鑑賞講座」そして本稿で詳述する「作曲家の個展」が挙げられます。「レコードコンサート」は1952年から1959年まで毎週開催され、一方「音楽鑑賞講座」は1954年から1956年まで、著名な音楽家たちを講師に招き、バッハから現代音楽まで幅広いテーマを扱っていました。

これらの音楽事業の流れを汲むかたちで企画されたのが、「作曲家の個展」です。1957年5月から1958年12月までの期間、ほぼ毎月1～2回のペースで計25回のコンサートが開催されました（中止回を含めると26回）。このコンサートシリーズは、音楽評論家として知られる秋山邦晴が企画構成に携わったことで知られています。

「作曲家の個展」では、当時活躍していた多くの現代日本人作曲家の作品が紹介されました。プログラムは多様で、個々の作曲家の作品を特集したものから、特定のグループやムーブメントの作品をまとめて紹介するもの、さらには現代音楽の動向を俯瞰できるような企画まで含まれていました。これにより、来場者は日本の現代音楽の多様な様相に触れる貴重な機会を得ることができました。

コンサートは、それぞれの作曲家の個性を反映した選曲と構成で、聴衆に新鮮な音楽体験を提供したと考えられます。単なる演奏会にとどまらず、作曲家自身の音楽に対する思想や創作背景なども紹介することで、より深く作品を理解できるような工夫が凝らされていた可能性もあります。

具体的にどのような作曲家が参加したかを見てみましょう。プログラムには、清瀬保二、入野義朗、戸田邦雄、芥川也寸志、松平頼暁、玉野良雄、柴田南雄、池内友次郎、早坂文雄、間宮芳生、團伊玖磨、松平頼則、黛敏郎、箕作秋吉、別宮貞雄、高田三郎、安部幸明、清水脩、諸井誠といった、当時日本の現代音楽シーンをリードした作曲家の名前が確認できます。さらに、「実験工房ピアノ作品演奏会」、「新興作曲家連盟回顧」、「山羊の会」、「葦の会演奏会」といった、現代音楽の潮流を示すグループや組織の演奏会も含まれていました。また、電子音楽やミュージック・コンクレートといった、当時新しく注目を集め始めていた音楽技法を取り上げた演奏会もあったことは興味深い点です。

これらのコンサートは、ブリヂストン美術館という、美術を主軸とした施設で開催されたという点も特筆すべきでしょう。美術と音楽という異なるジャンルの融合が試みられ、新たな芸術体験の創造を目指した美術館の姿勢がうかがえます。

「作曲家の個展」は、単なるコンサートシリーズ以上の意味を持っていました。それは、戦後日本の現代音楽の動向を記録し、後世に伝えるための重要な試みでもあったと言えるでしょう。このコンサートシリーズの記録は、日本の現代音楽史を研究する上で貴重な資料として、今後も活用されていくものと考えられます。

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