信濃鉄道の電車

本項では、信濃鉄道（現在のJR大糸線の前身）が1925年（大正14年）の電化に際し導入した電車群について解説します。これらの電車は、日本車輌製造で製造された木造車で、3つの形式が存在しました。

概要

製造されたのは、両運転台の三等制御電動車（デハ1形）、両運転台の三等郵便荷物合造制御電動車（デハユニ1形）、そして両運転台の三等制御付随車（ホハ1形）の3種類です。1925年から1927年にかけて3次にわたり、合計10両が製造されました。特筆すべきは、電動車のうち2両が、信濃鉄道の支線として開業した池田鉄道が1936年に電気運転を廃止した際に譲り受けたものであるという点です。

これらの車両は、3形式とも共通した形態を持っており、車体長15,850mm、最大長16,800mm、車体幅2,590mm、最大幅2,700mm、屋根高3,750mm、パンタグラフ折畳み高4,112mmという寸法でした。側窓の高さは610mm、客室扉幅は914mmでした。妻面はフラットな非貫通の3枚窓で、側面は出入口のステップ部分で斜めに切り下げられた構造が特徴的です。屋根は二重のモニター屋根で、台車にはブリル27MCB-2が装着されていました。

制御装置は間接非自動制御(HL)式で、[電動発電機]]は搭載されていませんでした。主電動機は、ウェスティングハウス・エレクトリック]社製のWH-556-J6または[[三菱電機製のMB-98Aを各4基装備していました。三菱電機製のMB-98Aは、WH社のWH-556-J6の設計を基に製造されたとされていますが、定格回転数がオリジナルよりも低く、歯車比も異なっていました。

集電装置には、WH社製の大型パンタグラフが搭載されていましたが、鉄道省買収後に標準型のPS13に交換されました。製造年度によって細部が異なり、1925年製は妻面の窓がすべて同じ高さで、運転室部分の側窓は幅500mm、連結器の両側にアンチクライマーが装備されていました。一方、1926年、1927年製は運転士の前方視界を確保するために前面中央窓の高さを大きくし、運転台を拡大したため、側窓が610mmになり、アンチクライマーは装備されていません。

これらの車両は、1937年 6月1日に信濃鉄道が国有化され、大糸南線となった際に、鉄道省籍に編入されました。当時在籍していた10両（デハ5両、デハユニ2両、ホハ3両）は、それぞれモハ20形、モハユニ21形、クハ29形という省形式が付与されました。地方線区での酷使が少なかったため、状態は比較的良好で、戦後も大糸南線で運用され、1955年まで営業用に使用された後、多くが私鉄に譲渡されました。

形式

デハ1形（モハ20形）

デハ1形は、制御電動車の基本形式であり、側面窓配置は1D232D232D1、定員は100人、自重は32.19tでした。鉄道省買収時には5両が存在しましたが、そのうち2両は池田鉄道から譲り受けた車両でした。初代のデハ1、デハ3は電装解除され、ホハ2、ホハ3となっています。鉄道省買収時にはモハ20形となり、20001 - 20005と改番されました。1949年には1両が電装解除されクハ29形となり、1953年にはモハ1100形に形式変更されました。その後、1両が車種調整のためクハ5110形となり、残りは1955年に廃車されました。

デハユニ1形（モハユニ21形）

デハユニ1形は、デハ1形に郵便荷物扱い設備を付加した制御電動車です。1925年に2両が製造されました。側面窓配置は1D（荷）2D（郵）12D232D1、定員は66人、荷物室荷重1t、郵便室荷重2t、自重は31.65tでした。鉄道省買収時にはモハユニ21形となり、21001，21002となりましたが、1951年に1両が廃車となり、残りの1両が1953年にモハユニ3100形に形式変更されました。その後、電装解除されクハユニ7100形となり、1955年に廃車されました。

ホハ1形（クハ29形）

ホハ1形は、デハ1形の電装を排した制御車で、側面窓配置と定員はデハ1形と同様、自重は24.94tでした。鉄道省買収時には3両が存在しましたが、うち2両は池田鉄道譲受車の電装を解除したものでした。買収後はクハ29形となり、29001 - 29003となりました。1949年にはモハ20形の1両が電装解除され編入されましたが、1951年に1両が廃車となりました。残りは1953年にクハ5100形に改められましたが、1954年に全車が廃車されました。

譲渡

本系列は、地方鉄道での使用に適した構造であったため、多くが私鉄に譲渡され、鋼体化の種車となりました。以下に譲渡状況を示します。

21002（1951年） - 上信電気鉄道デハ12（1952年鋼体化）
29013（1951年） - 松本電気鉄道クハ16（1952年） → クハ102（1964年。鋼体化）
1100（1955年） - 上田丸子電鉄モハ5263 → モハ5363（1958年制御器改造） → モハ5372（1960年小田急クハ1650形の車体と振替え）
1101（1955年） - 上毛電気鉄道デハ801 → 車体更新（1962年）
1103（1955年） - 長野電鉄モハ1 （2代） → モハ1101（1961年鋼体化） → 豊橋鉄道モ1811 （初代）（1979年）
5100（1954年） - 上田丸子電鉄モハ5262 → モハ5362（1958年制御器改造） → モハ5371（1960年小田急クハ1650形の車体と振替え）
5101（1955年） - 上田丸子電鉄クハ262
5110（1955年） - 長野電鉄クハ51 （2代） → クハ1151（1961年。鋼体化） → 豊橋鉄道ク2811（1979年）
7100（1955年） - 長野電鉄クハニ61 （2代） → モハ1102（1961年。鋼体化） → 伊予鉄道モハ603（1979年譲渡。新性能化）

これらの車両は、その後の日本の鉄道車両史において、重要な役割を果たしました。

脚注

信濃鉄道1号/池田鉄道1号形式図『最新電動客車明細表及型式図集』（国立国会図書館デジタルコレクション）

信濃鉄道の電車