信都芳

信都芳（しんと ほう）

信都芳（生没年不詳）は、中国南北朝時代に活躍した算術家、暦法家、そして工学者です。字は玉琳といい、河間郡を出自とします。

生涯

若い頃から算術の才能を発揮し、その名を知られる存在となりました。研究に没頭するあまり、寝食を忘れ、雷の音すら聞こえないほど集中していたといいます。北魏の安豊王、元延明に才能を認められ、賓客として迎えられました。

当時、元延明の家に江南出身の算暦家、祖暅がいましたが、冷遇されていました。信都芳は元延明に祖暅を礼遇するよう進言し、祖暅が南朝梁へ帰国する際には、算暦の諸法を教授されました。元延明の蔵書を渉猟し、五経の中から算法に関する記述を抜き出して『五経宗』を著しました。また、古今の音楽に関する知識を『楽書』にまとめました。

さらに、渾天儀、欹器、地動儀、銅烏、漏刻、候風儀といった器械の仕組みを詳細に解説し、図画とともに『器準』という書物にまとめました。元延明が江南へ亡命した後、信都芳は北魏に残り、自身の著作に注釈を加えました。その後、并州楽平郡の東山に隠棲しましたが、楽平郡太守の慕容保楽に請われ、面会しました。慕容保楽の弟である慕容紹宗が高歓に信都芳を推薦したため、高歓の館の客となり、中外府田曹参軍に任じられました。

丞相倉曹の祖珽が、伝承が途絶えていた律管による灰吹法を復活させるよう信都芳に依頼すると、彼はわずか十数日で河内郡に自生する葦の薄膜の灰を用いた方法が優れていることを発見しました。しかし、この発見は当時重視されることなく、灰吹法は再び途絶えてしまいました。

この他にも、『遁甲経』や『四術周髀宗』といった著作を残しています。李業興が編纂した戊子暦を、趙𢾺、何承天、祖沖之の三家の暦よりも優れていると自賛していたのに対し、信都芳は戊子暦の5つの欠点を指摘し、その誤りを批判しました。また、独自の暦書を私撰しようと試み、『霊憲暦』と名付け、何承天の元嘉暦よりも精密な暦を目指しましたが、完成を見る前に世を去りました。

著作

五経宗
楽書
器準
遁甲経
四術周髀宗
霊憲暦（未完）

伝記資料

『北斉書』巻49 列伝第41
『北史』巻89 列伝第77

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