倉吉平野

倉吉平野は、鳥取県の中央部、天神川流域に広がる沖積平野です。この平野は、東部の鳥取平野、西部の米子平野と並び、山陰地方を代表する地形の一つです。中国山地に源を発する天神川が運んだ土砂によって形成され、海岸部には砂丘や潟湖が点在するという特徴的な景観を持っています。

地理的特徴

倉吉平野は、狭義には天神川下流の三角州である羽合平野と北条平野を指しますが、広義には、上流の扇状地である倉吉盆地を含みます。天神川は、竹田川、小鴨川、国府川といった主要な川が合流して形成されており、かつてはこれらの川がそれぞれ独立して海に注いでいた時代もありました。江戸時代の大規模な河川改修によって現在の形になり、その際に菅原道真を祀る神社の境内を掘削したことから、この改修部分が「天神川」と呼ばれるようになりました。

平野の形成

中国地方は、第四紀の地殻変動により海岸部の平野が狭いという特徴がありますが、倉吉平野もその例外ではありません。冬の季節風の影響で、海岸線には砂丘や砂州が発達し、その背後には潟湖が形成されています。これらの砂丘の地層を調査すると、過去の火山の噴火や気候変動の痕跡を知ることができ、平野全体の形成史を推測する手がかりとなります。

かつて平野全体は潟湖でしたが、天神川の堆積作用によって埋め立てられていきました。現在では、羽合平野内に東郷湖が潟湖として残っています。これは、大平山の尾根が天神川の堆積作用を妨げたためです。また、左岸でも蜘ヶ家山の裾野が入り組んでおり、同様に池や湖として残っていましたが、近世に干拓されて水田地帯となりました。天神川は、特に急流であり、上流の中国山地や大山の火山灰地を浸食し、大量の土砂を運んできました。この土砂が平野を形成する一方で、川の氾濫も繰り返され、そのたびに流路を変えてきました。歴史的な資料や地質調査からも、天神川が過去に何度も流路を変えてきたことがわかっています。

歴史的背景

倉吉平野は、古代から山陰地方の重要な地域でした。倉吉盆地には、かつて伯耆国の国府が置かれ、政治・経済・文化の中心地として栄えました。倉吉盆地からは、その時代の遺跡が多数発見されています。倉吉市は、江戸時代の城下町から近代にかけて紡績業が発展し、現在の倉吉都市圏を形成しています。

一方、北条平野や羽合平野は、古代から農業地帯として発展しました。飛鳥時代に敷かれた条里制が、現在でも広範囲に残っています。これらの地域には山陰道などの古道が通っていましたが、砂丘の影響で大きな街道村には発展せず、現代でも農業地帯としての性格を維持しています。近世に干拓された地域では、条里制とは異なる区画割りがされており、古代からの水郷地帯と新田地域を区別することができます。

各平野の詳細

羽合平野

天神川の右岸に広がる羽合平野は、西を天神川、北を日本海、東を橋津川・東郷湖に囲まれた平野です。飛鳥時代に条里制が敷かれ、現在でも整然とした水田が広がっています。この地域は、湯梨浜町に属し、はわい温泉や東郷温泉などの温泉地があります。

羽合平野の地層調査から、約10万年前から20万年前に平野の原型が形成されたことがわかっています。氷期と間氷期を繰り返す中で、海底で形成された地層や、陸上で堆積した地層、火山の噴出物が重なり、現在の地形となりました。天神川の堆積作用によって、ラグーンが埋め立てられて三角州となり、現在の羽合平野が形成されました。この地域は、中世に東郷氏や南条氏が支配しましたが、関ヶ原の戦い後に鳥取藩の支配下に入りました。羽合平野は条里制の区画割りを最もよく残しており、この区画割りの乱れから、後世に農地化された場所を特定することができます。

北条平野

天神川の左岸に広がる北条平野は、天神川の沖積作用によって形成された三角州です。こちらも広い範囲で条里制に基づく整然とした水郷地帯が広がっています。現在では北栄町がこの平野の大部分を占めています。

北条平野は、山陰道が東西に貫いていますが、大きな街道村は形成されませんでした。平野の南側には、周囲を丘陵に囲まれた湾状の地形があり、これらはかつて潟湖でしたが、近世に干拓されて水田となりました。蜘ヶ家山の東麓からは、山陰最大級の貝塚遺跡である島遺跡が発見され、この地域がかつて湖だったことを示しています。天神川はかつて何度も流路を変えており、北条平野では西流して由良川に注いでいた時期もありました。天文年間の大洪水によって現在の流路に定着しましたが、その後も潟湖の干拓や新田開発が行われました。北条平野では、丘陵地帯でスイカの栽培が盛んで、「大栄すいか」として全国的に有名です。

灘手平野

北条平野の南西部にある灘手平野は、倉吉市と北栄町にまたがっています。周囲を山や丘に囲まれた入り江状の地形をしており、中心部には標高10メートル程度の丘があります。由良川が平野の中央を流れ、多くの支流と合流しています。この地域は、近世まで湖だったと考えられており、条里制は敷かれていません。干拓後も氾濫が頻繁に発生しており、現在もその影響が見られます。縄文時代の貝塚が見つかっており、かつては海だったことがわかっています。

北条砂丘

倉吉平野の北縁に広がる北条砂丘は、日本海と平野を隔てる海岸砂丘帯です。鳥取砂丘に次ぐ規模で、東西に約12km、南北に約1.5〜1.8kmの広がりを持ちます。この砂丘は、中国山地から流れ出た花崗岩由来の砂が、北西の季節風によって運ばれて形成されました。江戸時代までは不毛の地とされていましたが、近世に入って砂防林や灌漑設備が整備され、農地として利用されるようになりました。

砂丘の地層を調査すると、約4.7万年前の大山の噴火や、2万数千年前の姶良カルデラ火山の火山灰が確認でき、砂丘の形成過程を知ることができます。砂丘の下には鮮新世の玄武岩があり、その上に古砂丘層、火山灰層、新砂丘層が重なっています。この砂丘では、水稲栽培には適さなかったため、綿花栽培、養蚕のための桑畑、そしてブドウ栽培が盛んになりました。特にブドウは、砂地の特性を生かして高品質なものが生産され、この地域の特産品となりました。しかし、散水作業は過酷で「嫁殺し」とも呼ばれていました。その後、機械化が進み、農業生産が効率化されました。現在では、ブドウやナガイモなど、多様な農産物が栽培されています。

羽合砂丘

北条砂丘のうち、天神川以東の部分は羽合砂丘と呼ばれることもあります。羽合砂丘からは、大規模な集落跡である長瀬高浜遺跡が発見されており、弥生時代から室町時代まで人が住んでいたことがわかっています。

倉吉盆地

天神川中流域に位置する倉吉盆地は、周囲を丘陵や山に囲まれた盆地状の地形です。倉吉盆地は、狭義の倉吉平野には含まれませんが、倉吉市街地が形成されており、県内3位の規模の商業圏を形成しています。古代には伯耆国の国府が置かれ、山陰の中心地の一つでした。中世には打吹山に城が築かれ、城下町が形成されました。近世には商業の中心地となり、北条砂丘で生産された綿花を原料に、倉吉絣の生産が盛んになりました。明治時代には、紡績工場が誘致され、繊維工業の都市として発展しました。

まとめ

倉吉平野は、豊かな自然と歴史が織りなす独特の景観を持つ地域です。天神川が運んだ土砂によって形成された平野は、農業や文化の中心地として発展してきました。また、砂丘や潟湖など、多様な地形が共存しており、それぞれの地形が持つ歴史的な背景や、それを利用した産業の発展を垣間見ることができます。この地域は、古代から現代に至るまで、山陰地方の重要な拠点としての役割を果たしており、その魅力は今もなお、多くの人々を惹きつけています。

もう一度検索