個人タクシー認可汚職事件

個人タクシー認可汚職事件

1967年、アメリカ占領下の沖縄、琉球政府通商産業局を舞台に、個人タクシー免許の認可を巡る大規模な汚職事件が発生しました。この事件は、公正であるべき行政手続きが、いかに権力によって歪められるかを浮き彫りにしました。

事件の概要

当時、個人タクシー免許は非常に競争率が高く、558の枠に対して約1900人もの申請者がいました。1967年2月1日に受付が開始されたものの、免許取得者の発表は大幅に遅れ、12月18日までずれ込みました。この遅延自体が、既に不正行為の噂を呼ぶ要因となっていました。

そして発表当日、その噂は現実のものとなります。発表された合格者の中には、過去に交通違反歴のある不良運転者が含まれていた一方で、無事故無違反の優良運転者が不合格となっていたのです。この事実は、翌1968年年始に報道され、事件は一気に明るみに出ました。マスコミは連日この疑獄事件を報道し、世間の注目を集めました。

琉球警察は、この事態を重く見て、慎重に捜査を開始しました。その結果、この事件が通商産業局の構造的な汚職事件であることが判明しました。免許取得者の発表直前に「中部謀議」という秘密会合が開かれ、そこで合格者の入れ替えが行われていたのです。この会合には、政府の有力者も立ち会い、自分が推薦した者の合否を確認していたとされています。政府首脳は警察に圧力を加えましたが、当時の新垣淑重警察本部長はそれに屈せず、贈収賄に関与した者を次々と摘発していきました。

当時、通商産業局長を兼務していた小渡三郎行政副主席も責任を取り辞任しましたが、その後逮捕されました。最終的にこの事件で検挙された人数は121人にものぼりました。

捜査の経緯

1968年1月21日：琉球警察が極秘裏に特別捜査本部を設置。
1968年3月4日：第1次一斉家宅捜索を実施。通産局陸運課業務係長・中部個人タクシー協会事務局長ら3人を逮捕。
1968年3月9日：第2次一斉家宅捜索を実施。
1968年3月14日：陸運課監察係長を逮捕。
1968年3月21日：贈賄側4人を逮捕。
1968年4月4日：小渡三郎、行政副主席・通産局長を辞任。
1968年4月8日：小渡三郎の実弟ら3人を逮捕。
1968年4月18日：陸運課長を逮捕。
1968年4月24日：小渡三郎を逮捕。
1968年7月22日：小渡ら43人を起訴。

事件が与えた影響

この事件は、前行政副主席が逮捕されるという前代未聞の不祥事であり、当時の与党に大きな打撃を与えました。そして、同年11月に行われた行政主席選挙では、野党候補だった屋良朝苗が勝利する要因の一つとなりました。この選挙結果は、県民の政治に対する不信感と、腐敗した政治を一掃したいという強い願望を反映したものでした。

この事件は、戦後沖縄の政治史における大きな転換点となり、その後の沖縄の政治に大きな影響を与えました。また、汚職や腐敗は社会の根幹を揺るがす行為であり、公正な行政の重要性を改めて認識させる出来事となりました。

参考文献

沖縄タイムス社編『沖縄年鑑1969年版』1969年
沖縄県警察史編さん委員会編『沖縄県警察史 第3巻（昭和後編）』2002年

関連項目

個人タクシー
通商産業局
汚職
琉球警察

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