倪元璐

倪元璐（げい げんろ）は、明末の激動期を生きた官僚であり、同時に書家としても名を残しました。1594年に浙江省上虞で生まれ、その生涯は1644年、李自成軍の侵攻による北京陥落と共に幕を閉じました。

貧しい家庭に生まれた倪元璐ですが、幼い頃から多才ぶりを発揮しました。特に書道においては、王羲之と蘇軾の書風を深く学び、行書と草書において独自の境地を開きました。その書は、力強く重厚でありながら、確固たる意志を感じさせるもので、同時期の書家である黄道周や王鐸と並び、明代を代表する書家の一人として高く評価されています。

官僚としての倪元璐は、天啓2年（1622年）に科挙に合格し、進士として官界入りを果たしました。その後、翰林院編修などの要職を歴任しましたが、その剛直な性格から、しばしば上層部と対立しました。崇禎年間には、朝廷の腐敗を憂い、『三朝要典』の廃棄を強く訴えましたが、大学士の温体仁との不和が原因で、一度は職を辞することとなりました。この背景には、彼の私生活における問題も影響しており、妻を捨てて妾を本妻にしようとしたことが暴露され、非難を浴びました。

しかし、倪元璐の才能と志は、朝廷も無視することができず、崇禎15年（1642年）には兵部右侍郎兼侍読学士として再び召喚されました。その後、戸部尚書にまで昇進し、国の財政を担う重責を担うこととなりました。しかし、明朝の衰退は止まらず、李自成軍の侵攻によって北京は陥落し、倪元璐は自らの職務を全うしようと、自ら命を絶ちました。

倪元璐の生涯は、激動の時代における官僚の苦悩と、書家としての芸術的な才能、そして国家への忠誠心を示しています。彼の遺した書は、今もなお多くの人々を魅了し、明末の歴史と文化を語る上で、欠かせない存在となっています。

参考資料:
『崇禎長編』
『明史』
『明季北略』
『漫堂書画跋』

もう一度検索