備後銀行

株式会社備後銀行：地域の発展を支えた地方銀行

株式会社備後銀行は、1899年（明治32年）9月5日に広島県芦品郡府中町（現在の府中市）に設立された地方銀行です。この銀行は、後に広島銀行へと発展する前身の一つとして、重要な役割を果たしました。

設立の背景と地域の発展

備後銀行が設立された府中・上下地域は、古くから交通の要衝であり、農産物の集散地として栄えていました。藩政時代以降は、タバコ、薄荷、綿織物、養蚕製糸などの産業が発展し、内陸部の産業中心地としての地位を確立していました。1893年の銀行条例施行後、広島県下では多くの中小銀行が設立されましたが、備後銀行もその一つとして、地域の経済発展を支えるために設立されました。

備後銀行の設立時の資本金は20万円、払込金は5万円でした。主な出資者は、芦品郡や甲奴郡の地主や商人たちで、特に上下町側が払い込み金の半額を負担しました。その中には、岡田胖十郎、高木音吉、田辺勝といった、上下町の金融機関「共同成章社」の役員も含まれており、彼らは共同成章社の資金を投入し、備後銀行の設立に尽力しました。

1899年11月、備後銀行は府中町840番地に本店を、甲奴郡上下町（現在の府中市）に支店を開業しました。設立の経緯から、備後銀行は芦品・甲奴地域の地場産業と密接な関係を持ち、これらの産業とともに発展しました。第一次世界大戦後の戦後恐慌の中で地方銀行の整理・統合が進む中でも、備後銀行は地元経済の要請に応え、「土着銀行」として独立経営を維持しました。

合同拒否と苦難の時代

備後銀行は、他の銀行との合同に対して極めて消極的な姿勢を取りました。1926年の備後7行合同工作や、1929年の備南4行合同工作においても、最終的に参加を拒否しました。特に1929年の合同拒否は、本店を尾道銀行の所在地である尾道市に移転することへの懸念や、地元商工会の合併反対の声が影響しました。

しかし、1929年に始まった世界恐慌の影響が深刻化すると、預金量は伸び悩み、貸出金は減少しました。1934年には、預金が最盛期の90％、貸出金が80％にまで落ち込みました。こうした状況下で、備後銀行でも合併を容認する声が高まり、株主総会の決議に基づき、1934年12月26日に芸備銀行に営業を譲渡して解散しました。

解散に際して、芸備銀行が既に府中町に支店を設置していたため、備後銀行の府中本店は芸備銀行の支店に業務を継承し、閉鎖されました。

年表

1899年（明治32年）
9月5日：備後銀行の免許が下付される。
11月5日：開業。
1920年（大正9年）6月：備後6行の合同工作が浮上するが失敗。
1926年（大正15年）1月：備後7行の合同工作が浮上するが、備後銀行の反対で失敗。
1929年（昭和4年）：備後4行の合同工作が浮上するが、備後銀行は参加を拒否。
1934年（昭和9年）12月26日：芸備銀行に営業を譲渡して解散。

歴代頭取

森信安一（代表）：1899年9月 - 1910年3月
岡田胖十郎（代表）：1899年9月 - 1912年
延藤奨（吉兵衛）（頭取）：1910年3月 - 1934年12月

店舗

本店：芦品郡府中町840番地
支店：上下支店（甲奴郡上下町）

参考文献

有元正雄・天野卓郎・甲斐英男・頼祺一 『広島県の百年』（県民百年史34） 山川出版社、1983年
田辺良平『ふるさとの銀行物語［備後編］』 菁文社、2004年

外部リンク

銀行図書館 銀行変遷史データベース「（株）備後銀行」
備陽史探訪の会「備後南部の金融機関の設立と変遷について（福山編）」

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