尾道銀行

尾道銀行：地域経済を支えた銀行の歴史

尾道銀行は、1922年（大正11年）に設立された銀行で、現在の広島銀行の前身の一つです。本記事では、その前身である尾道貯蓄銀行の設立から、地域経済への貢献、そして備南銀行への合併、さらにその後の歴史について詳しく解説します。

尾道貯蓄銀行の設立

尾道は、江戸時代から明治時代初期にかけて、広島県下で最も繁栄した商業都市でした。県庁所在地の広島よりも早く、国立銀行（第六十六国立銀行）が設立されるなど、経済的に先進的な地域でした。このような背景から、1896年（明治28年）10月16日に尾道貯蓄銀行が設立され、翌11月には尾道の本店と広島・福山の2支店で営業を開始しました。

尾道貯蓄銀行は、1890年の貯蓄銀行条例に基づき、小口貯金の吸収と運用を目的とする貯蓄銀行の一つでした。広島県下では、広島貯蓄銀行に次いで初期に設立された銀行です。設立の中心となったのは、尾道の有力商人や福山の大地主である藤井与一右衛門など、第六十六国立銀行の設立に関わった人々でした。彼らは、第六十六国立銀行の貯蓄部門を担うために尾道貯蓄銀行を開業しました。設立翌年の1896年から1897年にかけて、備後地域などに4支店を設置し、事業を拡大しました。

普通銀行への転換と地元密着の営業

1921年（大正10年）の貯蓄銀行法制定により、貯蓄銀行の免許基準が厳格化されると、広島県下の貯蓄銀行は普通銀行への転換を余儀なくされました。尾道貯蓄銀行もその流れに乗り、1922年（大正11年）11月1日に資本金50万円の普通銀行に改組し、「尾道銀行」と改称しました。発足翌年の1923年には、本店が新築・竣工し、この建物は現在のおのみち歴史博物館として利用されています。

尾道銀行は、尾道市の金融業務を受託するとともに、「チャック」（ファスナー）製造の日本開閉器商会など、地元企業の育成・支援に力を入れました。1920年に第六十六国立銀行の後身である第六十六銀行が、県下の6行と合併して芸備銀行となった際、本店が尾道ではなく広島に置かれたことが背景にありました。さらに、1926年（大正15年）2月には、同じく尾道に本店を置いていた西原銀行が第一合同銀行に合併されたため、尾道銀行は尾道唯一の本店銀行となり、地元商工業界の期待を集めました。

新立合併による備南銀行発足とその後

大正末期以降、広島県下では銀行の整理・統合が進められました。1926年（大正15年）1月には、備後銀行・福山銀行・鞆銀行・世羅銀行・芦品銀行・松永実業銀行の備後地域6行との合併計画が浮上しましたが、実現には至りませんでした。しかし、尾道銀行は他行との合併を前向きに検討し、1929年になって世羅郡甲山町（現・世羅町）に本店を置く世羅銀行、甲奴郡矢野村（現・府中市）に本店を置く山岡銀行との新立合併による新銀行設立構想が浮上しました。同年1月には、この2行との合併覚書を調印し、翌1930年7月には株主総会を開いて合併を承認しました。

1930年10月には、3行合同による備南銀行の新立合併が認可され、11月1日の同行開業に伴い、尾道銀行は解散しました。新銀行の頭取には、尾道銀行頭取であった鳥居哲が就任し、12名の役員のうち半数の6名を尾道銀行出身者が占めました。また、尾道銀行の本店が新銀行の本店として継承されるなど、旧尾道銀行ひいては第六十六国立銀行以来の尾道財界の一定の存在感を示しました。

備南銀行は、第二次世界大戦末期の「一県一行」政策に伴い、呉銀行・（旧）藝備銀行・広島合同貯蓄銀行・三次銀行との合併を進め、1945年5月1日に新立の（新）藝備銀行が発足したため解散となりました。藝備銀行は、戦後の1950年に廣島銀行（のち広島銀行）に改称し、現在に至っています。

このように、尾道銀行は、尾道貯蓄銀行から数えて約50年の歴史の中で、地域経済の発展に大きく貢献しました。その歴史は、現在のおのみち歴史博物館や広島銀行にその名を残しています。

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