先史ヨーロッパ

先史ヨーロッパの歴史

先史ヨーロッパとは、文字記録が残る以前のヨーロッパ大陸における人類の歴史を指します。この長い歴史の中で、人類の進化、文化の発展、そして社会構造の変革が繰り広げられました。

前期旧石器時代

ヨーロッパで確認されている最古の人類遺跡は、グルジアのドマニシ遺跡です。ここからは、約180万年前の原人（ホモ・ゲオルギクス）の化石とオルドワン型石器が出土しました。また、ブルガリアのコザルニカ洞窟からは、約140万年前の人類活動の痕跡が見つかっています。西ヨーロッパでは、スペインのアタプエルカにあるグラン・ドリナ遺跡が有名で、約90万年前の原人（ホモ・アンテセッサー）の化石が発見されました。

前期旧石器時代の後半になると、ホモ・ハイデルベルゲンシスがヨーロッパ、アジア、アフリカに広く分布するようになります。この原人は、ネアンデルタール人と現生人類の共通祖先と考えられており、脳容量の増大や顔の平坦化などの特徴を持っていました。

中期旧石器時代（ムスティエ期）

中期旧石器時代には、ホモ・ハイデルベルゲンシスから進化したネアンデルタール人がヨーロッパ各地に広がりました。彼らは約60万年前から4万年前までムスティエ文化を築き、ルヴァロワ技法による石器製作や死者の埋葬といった儀礼行為を行っていたとされています。

ネアンデルタール人と現生人類の関係については、近年まで交雑は少なかったと考えられていましたが、ゲノム解析により現代人（特にアフリカ系以外）の遺伝子の一部がネアンデルタール人に由来することが判明しました。ムスティエ文化の代表的な遺跡には、フランスのムスティエ遺跡、クロアチアのクラピナ遺跡、イギリスのリンフォード・クォーリーなどがあります。

後期旧石器時代前半（オーリニャック期～グラヴェット期）

後期旧石器時代は現生人類（ホモ・サピエンス・サピエンス）が主役となります。ヨーロッパにおける現生人類最古の文化はオーリニャック文化で、約4万2000年前から3万2000年前にかけて南ヨーロッパで栄えました。オーリニャック文化は、剥片石器を多用することが特徴です。その後、ロシア平原からクリミア山脈にかけてグラヴェット文化が興隆し、尖頭器が多く見られます。

この時代には、オーリニャック文化とグラヴェット文化の両方で、女性像が数多く製作されました。世界最古の女性像とされるホーレ・フェルスの像をはじめ、オーストリアやロシア各地で発見されています。

また、3万年前のチェコや3万5000年前のベルギーの人骨から、ハプログループC1a2（Y染色体）が検出されており、これがヨーロッパ最古層の集団と考えられています。

後期旧石器時代後半（マドレーヌ文化）

後期旧石器時代の末期には、マドレーヌ文化が西ヨーロッパを中心に広がりました。マドレーヌ文化は、オーリニャック文化を母体としており、石刃を主体とした石器の他、洞窟壁画などの精神文化的な側面も特徴的です。ラスコーやアルタミラなどの著名な洞窟壁画は、この時期に描かれました。この頃のヨーロッパには、ハプログループI（Y染色体）に属するクロマニョン人が分布していました。

新石器時代

西アジアで始まった農耕は、メソポタミアを経てバルカン半島に伝わり、ヨーロッパ各地に広がりました。この農耕の普及は「新石器革命」と呼ばれ、人々の生活様式に大きな変化をもたらしました。初期の農耕文化としては、セスクロ文化が知られており、大麦や果樹の栽培、ウシやブタの飼育が行われていました。また、ストーンヘンジのような巨石記念物も新石器時代に作られました。

新石器時代の人々の遺伝子を調べると、ヨーロッパに農耕をもたらした人々はハプログループG2a（Y染色体）に属するとされています。また、先住の狩猟採集民であるハプログループI（Y染色体）も依然として多く見られ、農耕と巨石文明を受け入れていったと考えられます。

この時代には、現在のヨーロッパ人口の多数を占めるインド・[[ヨーロッパ語族]]がヨーロッパに移動してきたと考えられています。その具体的なルートについては、クルガン仮説やアナトリア仮説などがありますが、まだ定説には至っていません。

青銅器時代

ヨーロッパでの青銅器の使用は、紀元前3000年頃にバルカン半島で始まり、その後西ヨーロッパへと広がっていきました。青銅器の普及は、交通の発達や遠隔地貿易を促進し、都市的な集住生活を可能にしました。この社会構造の劇的な変化は「都市革命」と呼ばれています。

エーゲ海沿岸では、キクラデス文明、クレタ文明、トロイア文明などのエーゲ文明が栄えました。これらの文明では線文字Aや線文字Bなどの文字が使われており、文献史学の研究も進められています。

西ヨーロッパでは、ルサチア文化や北欧青銅器文化などが栄えました。この頃には、イベリア半島にハプログループR1b（Y染色体）に属する人々が到達し、インド・[[ヨーロッパ語族]]の拡散もほぼヨーロッパ全土に及んだと考えられています。

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