光島丸

光島丸（みつしままる）

「光島丸」は、第二次世界大戦中の厳しい戦況下で建造された戦時標準船の一つ、2TL型タンカーです。日本の生命線であった石油の輸送を主任務とし、特に太平洋戦争末期には絶望的な状況で行われた南号作戦に参加、奇跡的に生還した最後の船としてその名を残しています。戦後も日本の復興期における石油輸送を担うなど、波乱に富んだ生涯を送りました。

建造と戦時下の航海

戦時標準船2TL型は合計31隻が建造されましたが、そのうち三菱汽船には4隻が割り当てられました。しかし、「富島丸」や後に運輸省に売却され防波堤となった船があったため、実際に三菱汽船で運用されたのは「せりあ丸」「さばん丸」そして「光島丸」の3隻でした。「光島丸」は2TL型の20番船として、1944年（昭和19年）9月20日に三菱長崎造船所で起工され、わずか86日後の12月15日には竣工するという驚異的な速さで完成しました。

竣工後、「光島丸」は船舶運営会の使用船となり、1944年12月31日に門司港を出港したヒ87船団に加わり南方へと向かいます。しかし、早くも翌年1月7日には機関故障に見舞われ、船団から離脱。駆逐艦「旗風」に護衛されて高雄へ退避し修理を試みました。一旦は修理を終えましたが、1月10日に高雄を出港した直後に再び不具合が発生し、やむなく高雄へ引き返します。この不具合は深刻で、本格的な修理が必要となりました。1月15日には修理のため左営へ移動しましたが、そこでアメリカ第38任務部隊による大規模な空襲に遭遇します。「光島丸」は軽微な被害で済みましたが、同じく左営で修理中だった特設運送船「みりい丸」は炎上沈没しました。

修理完了後、1月29日に単独で高雄を出港し南下船団との合流を目指しますが、その夜には早くもPBYカタリナからの爆撃を受けます。60キロ爆弾一発が命中しましたが不発であり、焼夷弾による被害も軽微で、辛くも難を逃れました。翌1月30日、無事ヒ89船団と合流し、南を目指して航海を続け、2月8日に昭南（シンガポール）に到着しました。

南号作戦、絶望の中の帰還

昭南に到着した「光島丸」は直ちに原油の積込みを開始しましたが、船体の油漏れが激しく、積込み中に修理が必要となりました。修理後、原油約12,000トン、重油約1,300トンに加え、錫やジルコンなどの重要物資、さらには女性21名を含む便乗者73名を乗せ、同型船「あまと丸」「富士山丸」と共にヒ96船団を編成し、日本を目指す南号作戦の航海を開始しました。

しかし、この帰還航海は苦難の連続でした。2月27日、船団はアメリカ潜水艦「ブレニー」の攻撃を受け、「あまと丸」が沈没。船団は海南島への緊急避難を図りますが、2月28日夜には夜間偵察機に発見され、針路を瓊州海峡に変更して航行を続けました。翌3月1日午後、臨高沖で再び爆撃に遭遇します。投下された爆弾5発のうち1発が船首貨物艙に命中し、水線付近に大きな破孔が生じました。船首は海中に深く沈み始め、便乗者8名が戦死するなど人的被害も発生しました。

絶望的な状況でしたが、便乗者の中にいた女性たちが自ら「にわか看護婦」となって救護活動を行い、また懸命な排水作業が行われました。この必死の努力の結果、「光島丸」は沈没を免れましたが、修理のため3月7日に香港へ入港。搭載油類のうち2,500トンを放出した後、10日間の応急修理を受けました。

3月18日、修理を終えた「光島丸」は香港を出港し、海防艦「新南」などの護衛のもと、中国大陸や朝鮮半島沿岸の比較的浅い海域を選んで航行を続けました。そして、1945年3月27日、ついに門司港に到着しました。これは、本土決戦の様相を呈する沖縄戦が本格化するわずか5日前のことでした。

「光島丸」の帰還は、事実上、南号作戦において物資輸送に成功し本土にたどり着いた最後の船となりました。帰還した便乗者たちは涙ながらに上陸し、持ち帰られた重油の一部は戦艦「大和」に移されたと言われています。特に、臨高沖での被弾時に献身的な救護活動を行った女性便乗者たちは、乗船当初の不安を乗り越え、香港での修理中に日本海軍からの下船勧告を断るほど、船との一体感を持つようになっていたといいます。

大任を果たした「光島丸」は、4月10日に相生湾へ回航され、本格的な修理の機会を待ちました。終戦間際の7月28日にはアメリカ第38任務部隊機による空襲を受けましたが、至近弾と機銃掃射による軽微な被害で済み、無事でした。

兵装

「光島丸」に搭載されていた主な兵装は以下の通りです。

短20cm砲 1門
九六式25mm連装機銃 2基
九三式13mm単装機銃 4基
爆雷
電波探信儀 1基
水中聴音機 1基

戦後

1945年8月15日、終戦を相生湾で迎えた「光島丸」は播磨造船所で修理を受けました。戦後、GHQ（連合国軍総司令部）の日本商船管理局（SCAJAP）の管理下に置かれ、SCAJAP-X020という管理番号が与えられます。

1946年（昭和21年）4月からは、横浜港や宇品港で燃料供給を行うステーション・タンカーとして運用されました。さらに1948年（昭和23年）7月、GHQの指示により、日本に残されたタンカー群と共にペルシア湾沿岸からの原油輸送に従事することになります。「光島丸」は同年8月12日の横浜出港を皮切りに、バーレーンやサウジアラビアのラスタヌラといった中東の港へ向かう航海を、解体されるまでに58回も行いました。

この間、所属会社も変化しました。1949年（昭和24年）4月1日の財閥解体政策に伴い、三菱汽船は解散。事業と船は新たに設立された極東海運に引き継がれました。「光島丸」も極東海運に移籍しましたが、同年6月2日には極東海運が三菱海運と社名を変更したため、最終的には三菱海運所属となりました。

1951年（昭和26年）には、船級を取得するための改造工事を受け、その輸送能力を維持しました。

しかし、時代が下り、より大型で効率的なタンカーが建造されるようになると、「光島丸」はその役目を終えることになります。1959年（昭和34年）12月25日、第15次計画造船で建造された新造船に道を譲る形で、坂口興産に売却され、解体されました。

「光島丸」の生涯は、戦時下の過酷な状況から始まり、南号作戦という極めて危険な任務を乗り越え、戦後復興期の日本のエネルギー輸送を支えた、まさに激動の時代を生き抜いた船の物語と言えるでしょう。

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