光沢毅

光沢 毅（みつざわ たけし）

1936年9月13日、長野県飯田市に生まれる。野球選手（投手、外野手）、監督、解説者、そしてブラインドゴルフ選手として多岐にわたる活動を行った。

野球との出会いは、終戦の翌年、小学4年生の時。野球に没頭する少年時代を過ごし、中学では投手を中心に様々なポジションをこなした。

飯田長姫高時代：甲子園の「小さな大投手」

飯田長姫高校に進学後、学校の授業中もゴムまりを握り続け、強靭な握力を培った。その握力から繰り出すドロップボールは鋭く変化した。2年生の春、3年生エースが受験のため退部したことで、光沢がチームのエースとなった。3年生となった1954年、公称160cmながら実際は157cm、体重わずか51kgという小柄な体格でありながら、チームを初の選抜大会出場に導いた。前評判は決して高くなかった飯田長姫高だったが、左腕エースの光沢は大会で平均12奪三振を記録するなど、剛速球と変化球を武器に注目を集める。

初戦の相手は優勝候補の大本命と目されていた名門・浪華商。しかし、光沢は冷静な投球で強豪打線を抑え、味方が奪った虎の子の1点を守り切り、4安打完封、1対0で劇的な勝利を飾った。続く準々決勝の高知商戦では、7回まで無安打に抑える快投を見せながら、自らバットでも2打点を挙げ、2対1の接戦をものにした。準決勝の熊本工戦も完封し、6対0で快勝。チームを決勝進出へ導いた。

決勝の相手は小倉高。初回、光沢は無死満塁の絶体絶命のピンチを迎える。しかし、バント処理をした光沢は二塁走者の動きを見逃さず素早く二塁へ送球し、さらに三塁走者も刺すという機敏なプレーでピンチを乗り切った。3回にも再び一死満塁のピンチを招くが、巧みな投球術で相手のスクイズを冷静に見破り、ここも無失点で切り抜ける。そして4回、攻撃では自らの安打で出塁すると、後続の連打で決勝点となる貴重な一点をもぎ取った。その後は両チーム無得点で試合は終了。光沢は再び1対0での完封勝利を飾り、飯田長姫高に、そして長野県勢に初の選抜優勝をもたらした。4試合でわずか1失点、3完封という驚異的なピッチングで強豪校を次々と破る快進撃を牽引した光沢は、試合後のインタビューで「小さな大投手」と称賛され、その名を全国に轟かせた。この優勝は長野県勢にとって、1928年夏の松本商以来の甲子園制覇であり、春の大会での優勝は初めてであった。

大会中、準決勝の直後に右足が化膿するというアクシデントに見舞われたが、雨で決勝が一日順延されたことで事なきを得た。もし予定通り行われていれば、登板は困難だったとされる。この大会からテレビ中継が始まったこともあり、その活躍は全国に知られることとなった。優勝を遂げた飯田長姫高は、旧飯田商時代を含めても、この選抜での優勝が唯一の甲子園制覇となっている。

大学、社会人、そして監督へ

高校卒業後、1955年に明治大学へ進学。野球部監督・島岡吉郎の直接勧誘によるものだった。高校時代の酷使による左肩の故障を隠しながら猛練習に耐え、東京六大学リーグでは投手として7勝を記録したが、完投はなかった。また、1番・中堅手としても出場するなど、野手としての能力も発揮した。1年秋にはチームの優勝を経験したが、その後は優勝から遠ざかった。

大学卒業後、1959年に故郷に戻り三協精機に入社。この頃、投手から正式に外野手へ転向。俊足好打の選手として活躍し、1961年には1番・中堅手として都市対抗に初出場するなど、チームの主力として活躍した。1966年シーズン限りで現役を引退した。

引退後、1967年から1977年まで三協精機の監督を務めた。監督としてチームを7度（うち5度は連続）都市対抗出場に導き、1970年には産業対抗準優勝、1971年には都市対抗ベスト4に進出するなど、手腕を発揮した。特に1974年には、第1回社会人野球日本選手権大会でチームを優勝に導くという快挙を達成。当時の信越地区を代表する強豪チームとして三協精機の名を知らしめた。

社会人野球の指導者として活躍する傍ら、選抜高校野球大会の選考委員やNHK高校野球解説者も長年務めた。また、母校・明治大学でも1977年秋季に助監督代行、1978年秋季には監督を務めた。しかし、選手の自主性を重んじる指導方針は、当時の島岡監督のスタイルとは異なり、後任監督問題を巡る騒動に発展。勤務先の都合もあり、明大監督としてはわずか1シーズンでの交代となった。

その後の人生と失明、そして新たな挑戦

三協精機の監督退任後、一時社業に就いていたが、間もなく野球部が解散。その後、退社し諏訪市で建設関連の会社を経営した。1987年9月、親交の深かった星野仙一とのゴルフコンペからの帰路、交通事故に遭い視力を失う。入院中のインタビューでは、長野県の高校野球の現状について、「指導者のレベルアップが大切」と持論を展開した。

その後は茅野市で会社を経営していたが、1991年には明治大学の替え玉受験事件に関与したとして逮捕されるという出来事もあった。

視力を失った後、1995年頃からブラインドゴルフを始めた。新たな挑戦としてこのスポーツに取り組み、2000年にはブラインドゴルフ・ジャパンオープン・チャンピオンシップで総合優勝を果たすなど、優れた成績を残した。1998年と2000年には世界選手権にも出場している。

現在は、中学生硬式野球クラブ「摂津千里丘リトルシニア」の会長を務め、少年野球の育成にも力を注いでいる。

指導した主な選手

三協精機監督時代

内田俊雄
会田照夫
池島和彦
山口富夫
玉井信博
伊藤文隆
佐々木正行
小嶋正宣
田中昌宏
平田恒雄
中村昭
上田芳央
大塚喜代美
坂田松一
鈴木一比古
谷口善章
幡野正秋
樋江井忠臣
星山和久

明治大学監督時代

高橋三千丈
鹿取義隆
豊田誠佑

著書

* 『甲子園野球 練習と試合』成美堂出版、1976年

もう一度検索