党錮の禁

党錮の禁（とうこのきん）とは

党錮の禁とは、後漢末期に発生した政治的な弾圧事件です。これは、宦官勢力と、彼らを批判する清流派の士大夫（官僚）との間の対立が激化した結果として起こりました。清流派の多くは官職を剥奪され、社会からの出仕を禁じられるという重い処分を受けました。

この事件は、延熹9年（166年）と建寧2年（169年）の2回にわたって行われ、それぞれ第一次党錮の禁、第二次党錮の禁と呼ばれています。

背景

後漢時代、和帝が外戚である竇憲らを排除するために宦官を重用したことが、宦官の勢力拡大のきっかけとなりました。しかし、これらの宦官たちは自身の利益を優先し、汚職が横行するようになります。これに対し、一部の士大夫たちは「清流派」を名乗り、宦官や彼らに結びつく勢力を「濁流派」として公然と批判しました。

この批判の背景には、儒教的な価値観から宦官を人間として認めないという考え方や、士大夫が影響力を持っていた人材選抜制度「郷挙里選」への宦官の介入がありました。宦官と士大夫の対立は、宦官と外戚との間の権力闘争とも絡み合い、深刻化していきました。

事件の経過

第一次党錮の禁

延熹9年（166年）、司隷校尉の李膺や太学の学生である郭泰、賈彪などの清流派の人々が、朝廷内で宦官の専横を批判し、その罪状を告発しました。しかし、宦官たちは逆に「党人どもが朝廷を誹謗している」と訴え、李膺ら清流派の党人を逮捕しました。逮捕された人々は、豪族たちの働きかけにより死罪は免れたものの、終身禁錮の刑に処されました。これが第一次党錮の禁です。

第二次党錮の禁

建寧2年（169年）、外戚の竇武と清流派の党人である陳蕃らが結託して宦官の排除を計画し挙兵しましたが、宦官の曹節と王甫が協力し、詔勅を偽って逆に竇武らを誅殺しました。この事件に関与した者や清流派の党人たちに対して行われた弾圧が第二次党錮の禁です。

党錮の禁の終結

党錮の禁の対象者は、熹平5年（176年）には党人の一族郎党にまで拡大されました。しかし、その後、黄巾の乱が発生した際、追放された党人たちが乱に加担することを恐れた後漢朝廷によって禁が解かれ、党錮の禁は終結しました。その後、朝廷は党人を積極的に召し出して統制・監視する方針に転換します。

黄巾の乱が終結すると、十常侍をはじめとする宦官と外戚の何進との間で再び権力闘争が起こります。宦官たちは何進を謀殺しますが、何進の謀殺に怒った袁紹・袁術らの軍勢が宮中に乱入し、宦官らを皆殺しにしました。これにより、宦官と外戚の権力闘争は共倒れという形で終結しましたが、その隙に洛陽を占拠した董卓の専制により、後漢王朝は統治力を失いました。

三君八俊

党錮の禁が起こると、清流派の名士たちは、評価の高い天下の名士にそれぞれ位階・称号をつけました。位階は上から『三君』『八俊』『八顧』『八及』『八廚』と呼ばれました。

『君』：一世で宗主として仰ぐ者
『俊』：英才を持った者
『顧』：徳を持ち人々を導く者
『及』：人々を導き宗主を追う者
『廚』：財をなげうって人々を救う者

各一覧

三君：竇武、劉淑、陳蕃
八俊：李膺、荀昱、杜密、王暢、劉祐、魏朗、趙典、朱宇
八顧：郭泰、宗慈、巴粛、夏馥、范滂、尹勲、蔡衍、羊陟
八及：張倹、岑晊、劉表、陳翔、孔昱、苑康、檀敷、翟超
八廚：度尚、張邈、王考、劉儒、胡毋班、秦周、蕃向、王章

党錮の禁に関する研究

川勝義雄は、党錮の禁で弾圧された勢力を

豪族層の利害を代表するものであり、その政治的立場は地方分権を指向するものであった。

としました。

これに対して矢野主税は

中央集権的な官僚政治を志向するものであった。

と主張しました。

この両者の論争は、貴族制研究・中国史時代区分論争に絡んで1950年から1970年代にかけて激しく行われましたが、明確な結論が出ないまま終焉しています。

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