入谷南公園

入谷南公園

東京都台東区、かつて入谷町と呼ばれた地域（現：松が谷）に位置する入谷南公園は、面積約3,910平方メートルの街区公園（旧称：児童公園）です。この公園は、日本住宅公団に所属し、後に筑波大学の教授となる造園技師、池原謙一郎によって1958年から1959年にかけて設計されました。そのユニークな設計思想と造形により、日本の公園史において重要な位置を占めています。

歴史的には、1963年に発生した吉展ちゃん誘拐殺人事件の舞台となった場所としても知られています。また、地域の住民に広く利用される利用率の高い公園であるとともに、災害発生時には帰宅困難者の一時滞在場所となる「帰宅支援場所」としての役割も担っています。

設計と背景

日本の都市部では、高度経済成長期に入ると共に深刻な住宅不足が顕在化しました。この問題に対応するため、1955年（昭和30年）に設立されたのが日本住宅公団です。公団は、それまでの日本の住宅とは異なる、新しい生活様式を取り入れた集合住宅団地を大量に供給しました。

これらの団地の屋外空間設計も重視され、住棟間に設けられたオープンスペースは「団地造園」と呼ばれました。団地造園では、居住者が安全に移動できる歩行者専用通路である「ペデストリアン・スペース」が緑豊かな線状の空間を形成し、その要所に子どもたちが安全に遊べる空間として「プレイロット」が配置されました。

この時期、特に子どもの遊び場は、住宅公団や建設省に所属する造園技師たちによって多角的に研究が進められました。その中で、1957年（昭和32年）には、池原謙一郎と東京都の造園技師であった北村信正が中心となり、「遊び場の研究会」が発足します。この研究会には、建築家の小川信子をはじめ、川本昭雄や田畑貞寿といった多くの造園家が参加し、毎月のように討論会を開いて遊び場に関する深い議論を交わしました。入谷南公園は、この熱心な研究活動の成果として、池原謙一郎によって生み出されたものです。

特徴的な造形

入谷南公園の設計においては、「プレイ・スカルプチャー」という革新的な概念が導入されました。これは、単なる遊具を置くのではなく、遊びの要素を含んだ彫刻的な構造物、あるいは空間全体を遊びの彫刻として捉えるという考え方です。この概念に基づき、公園には以下のような特徴的な空間造形が配置されました。

緑の山: 高さ約4メートルにもなる人工的に盛られた丘。子どもたちが昇り降りして遊べる、立体的な遊び場です。
石の山: 逆さまにしたお椀のような、滑らかな曲面を持つ石造りの構造物。子どもたちがよじ登ったり滑ったりして遊べる、彫刻的な遊具です。
子供センター: 地面をすり鉢状に窪ませた円形の空間。子どもたちが集まって座ったり、中心で遊んだりできる、半閉鎖的な遊び場です。

これらの造形物は、当時の一般的な公園に設置されていた滑り台やブランコといった既成の遊具とは一線を画す、非常に斬新なものでした。

社会的な側面と評価

入谷南公園は、そのユニークな遊び場構成から、完成後すぐに全国的な注目を集めることとなりました。特に「石の山」はその斬新さから大きな話題を呼び、設計者である池原謙一郎がNHKの番組「朝の訪問」に出演するきっかけともなりました。これは、公園の設計が単なる機能的な空間づくりに留まらず、パブリックアートとしても評価される可能性を示唆する出来事でした。

現代においても、入谷南公園は地域の公園として多くの人々に利用されています。また、上述の通り、災害時には帰宅支援場所としての機能も果たしており、地域の安全・安心を守る上で重要な役割を担っています。

アクセス

所在地: 東京都台東区松が谷3丁目23番7号、北上野2丁目13番1号（入谷南ポケットパークを含む）
鉄道:
JR各線 上野駅より徒歩約15分
東京メトロ日比谷線 入谷駅より徒歩約5分
東京メトロ銀座線 稲荷町駅より徒歩約10分

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