六師外道

六師外道：釈迦と同時代の異端思想家たち

紀元前6世紀頃、古代インドのマガダ地方では、釈迦と同時代の6人の思想家が活躍していました。仏教は、これらの思想家をまとめて「六師外道」と呼び、自教とは異なる異教と位置づけています。「外道」とは仏教以外の教えを指し、「内道」に対して用いられる用語です。

この時代、インド社会は大きな変革期にありました。商工業の発展に伴う貨幣経済の台頭は、従来のバラモン（祭祀司祭）やクシャトリヤ（武士階級）による支配体制を揺るがし、都市文化の繁栄と自由な享楽的な空気が広がっていました。こうした状況下で、既存のヴェーダ（聖典）の権威を否定する自由な思想家たちが多数現れ、活発な議論が展開されました。六師外道も、こうした反ヴェーダ思想、非正統バラモン思想の代表的な存在と言えるでしょう。釈迦自身も、この時代の思想的潮流の中で活動した一人でした。

原始仏典では、当時の多様な思想を「六十二見」に分類し、その中でも特に重要な6人の思想家を「六師外道」と総称しました。波斯匿王は、これらの思想家を年長者、釈迦を年少者と呼んだという記録も残っています。後に、各六師に16人の弟子がいたとされ、「九十六種外道」という呼称も生まれたようです。

六師外道の思想：多様な哲学的探求

それぞれの思想家の主要な考えは以下の通りです。

プーラナ・カッサパ（富蘭那迦葉）：道徳否定論を唱えました。善悪の行為、その報いも存在しないと主張し、倫理や宗教の無意味さを説きました。

パクダ・カッチャーヤナ（迦羅鳩馱迦旃延）：七要素説を提唱しました。地水火風という四元素と苦楽命の七要素から人が成り立ち、これらは不変で相互に影響を与えないため、因果応報も存在しないとしました。

アジタ・ケーサカンバリン（阿耆多翅舎欽婆羅）：唯物論、感覚論、快楽主義の立場を取りました。人間は地水火風の四元素から成り、死後には消滅するとし、宗教や道徳は不要で、現世の享楽のみを追求すべきだと主張しました。

マッカリ・ゴーサーラ（末迦梨瞿舎利子）：運命決定論（宿命論）を説くアージーヴィカ教の開祖です。全ての出来事は既に定められており、人間の意志は何も影響しない、という立場でした。

サンジャヤ・ベーラッティプッタ（刪闍耶毘羅胝子）：懐疑論、不可知論の立場でした。真理は認識不可能であり、確実な知識を得ることはできないと主張しました。

マハーヴィーラ（尼乾陀若提子）：ジャイナ教の開祖です。相対主義、苦行主義、要素実在説を唱え、霊魂の永遠不滅性を主張し、苦行を通して解脱を目指す道を説きました。

仏教以外の視点

「六師外道」という分類は、あくまでも仏教側の視点からのものです。他の宗派、例えばヒンドゥー教では、仏教を含むヴェーダを否定する諸派閥を「ナースティカ」（非正統派）と呼び、六派哲学を「アースティカ」（正統派）と区別しています。また、ジャイナ教の信者にとってマハーヴィーラは外道ではなく、その開祖です。

このように、古代インドの思想界は多様な思想が複雑に絡み合った状況でした。六師外道は、その多様な思想の一側面を示す重要な存在であり、仏教成立の背景や、古代インド思想全体の理解に欠かせない存在です。それぞれの思想家の哲学を理解することで、古代インドの知的な活気と、仏教成立の特殊性をより深く理解することができるでしょう。

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