兼次佐一

兼次佐一：激動の沖縄を駆け抜けた政治家

兼次佐一は、1909年に沖縄県国頭村で生まれ、1998年に生涯を閉じた政治家です。戦後の沖縄において、立法院議員を2期、那覇市長を1期務めました。彼は、沖縄人民党、沖縄社会大衆党、沖縄社会党という3つの左派系政党の結成に関わり、それぞれの党で要職を歴任し、その政治活動は沖縄の戦後史に大きな足跡を残しました。

生い立ちと多様な職業経験

国頭村で生まれた兼次は、幼少期に本部村伊豆味に移住しました。小学校卒業後、大阪や京都で工場労働者として働き、その後沖縄に戻り、道路工事、弁護士事務所の事務員、保険外交員、新聞記者など、様々な職を経験しました。その傍ら、青年団運動や村政改革運動にも積極的に参加し、1940年には本部町議会議員に当選し、政治家としての第一歩を踏み出しました。

戦後の政治活動

沖縄戦後、兼次は『うるま新報』に参加し、国頭支局長を務めました。1947年には、瀬長亀次郎らと共に沖縄人民党を結成し、常任中央委員兼政治部長に就任。1948年には本部町長に当選し、その後人民党の委員長となりました。しかし、党運営を巡り瀬長亀次郎と対立し、浦崎康華と共に脱党。1950年には平良辰雄と共に沖縄社会大衆党を結成し、初代書記長となりました。

1952年と1954年には立法院議員に連続当選しましたが、1956年には落選。1957年に那覇市議に当選し、市長となった盟友・瀬長を支持しました。しかし、瀬長追放後の1958年、兼次は人民党・社大党左派からなる「民主主義擁護連絡協議会」の統一候補として那覇市長選に立候補。社大党執行部が対立候補を立てたため、兼次は社大党を離党し沖縄社会党を結成、執行委員会議長に就任しました。市長選では僅差で勝利し、那覇市長に就任しました。

那覇市長としての実績

那覇市長として、兼次は日米琉各政府からの財政援助を獲得し、都市計画事業を推進しました。その姿勢は、当初は「変節」と批判されましたが、都市の発展に大きく貢献しました。特に、市中心部を流れるガーブ川の改修工事は、長年の懸案事項でありましたが、米国民政府や琉球政府を巻き込み実現にこぎつけました。また、1961年には那覇市制40周年記念として、沖縄初のプロ野球公式戦（西鉄×東映）を招致するなど、文化振興にも尽力しました。

しかし、その超党派的な姿勢は、次第に党内からの反発を招き、1959年には社会党を除名されます。この時、兼次の除名に不満を持ち脱党した党員の中に、後に政治家となる上原康助がいました。1961年の市長選では西銘順治に敗れ、政界を引退。その後、台湾貿易に従事するも失敗し、一時横浜で保険外交員をしていた時期もありました。

晩年は月刊誌『政経情報』の編集発行人として活動し、1993年には沖縄県功労章を受章しました。1998年、心筋梗塞のため89歳でこの世を去りました。

「ガーブ川七不思議」

兼次のユーモアと反骨精神を象徴するエピソードとして、「ガーブ川七不思議」が知られています。これは、那覇市長時代にガーブ川商店街組合の会合で披露したもので、川の状態を嘆きつつ、そこに住む人々の生活ぶりを皮肉った内容となっています。

1. 戦前はアヒルだけが住んでいたガーブ川一帯が、いつの間にか那覇市の経済の中心地となった。
2. 川の上に建物があるはずはないが、ガーブ川の上にはズラリと並んでいる。
3. 川には地主はいないと思っていたが、ガーブ川には地主がいる。
4. 毎年のように浸水して大損害をしたといって騒ぐくせに、一人として立ち去った者はいない。
5. ガーブ川は年中臭気を発散しているが、そこに住んでいる人には臭味を感じさせない。
6. 勝手に住んでいるくせに、氾濫したからといって文句を言いに市長室まで押し寄せてくる。
7. 選挙の度毎に改修するといっているが、改修した政治家は一人もいない。

参考文献

兼次佐一『真実の落書 人生記録』（教宣社、1976年）
沖縄タイムス社編『私の戦後史 第7集』（沖縄タイムス社、1983年）
* 当山正喜著『政治の舞台裏』（沖縄あき書房、1987年）

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