内田栄一 (歌手)

内田栄一：昭和期の音楽界を彩ったバリトン歌手と音楽教育者

内田栄一（1901年-1985年）は、昭和時代の日本の音楽界において、バリトン歌手、指揮者、そして音楽教育者として多大な功績を残した人物です。東京音楽学校（現在の東京藝術大学音楽学部）卒業後、ネトケ＝レーヴェに師事し、確かな音楽的基礎を築きました。

彼の活動は多岐に渡ります。NHK放送オペラ初期のメンバーとして活躍し、1927年には歌劇研究グループ「レスビアン・ヴォーカル・フォア」（後に「ヴォーカルフォア」）を結成しました。このグループは、NHK放送オペラを支え、日本のオペラ発展に貢献した重要な存在でした。同グループでの活動は1930年代まで続き、第二次放送オペラにも出演するなど、日本の放送オペラの黎明期を担いました。

ソリストとしての活動も盛んでした。近衛秀麿作曲・指揮による新交響楽団（後のNHK交響楽団）の『大禮交聲曲』ではバリトンソロを務め、その深い表現力と歌唱力で聴衆を魅了しました。また、藤原歌劇団にも所属し、『トスカ』のアンジェロッティ役など、数々の重要な役を演じました。さらに、1936年には日比谷公会堂でガブリエル・フォーレ作曲『鎮魂彌撒曲』の日本初演にバリトンソロとして出演するなど、幅広いレパートリーを誇っていました。藤原歌劇団での活動は、戦後も続き、『カヴァレリア・ルスティカーナ』のアルフィオ役などを演じています。戦後のオペラ出演は比較的少なくなりましたが、『ブン大將』や『アルカンタラの醫者』などの重要な役を演じ、その舞台人としてのキャリアを示しました。

内田栄一の音楽活動は、歌手としての活動にとどまりませんでした。彼はヴォーカルフォア合唱団の運営にも携わり、藤原歌劇団の合唱指揮も務めました。特に、戦後にはヴェルディ『リゴレット』など、多くの公演で藤原歌劇団の合唱指揮を務め、その高い指導力で合唱団を支えました。

録音活動も盛んに行い、戦前から戦中にかけて多くのレコードを吹き込みました。流行歌から軍歌まで幅広いジャンルの楽曲を録音し、当時の大衆音楽に貢献しました。中には『月月火水木金金』など、大ヒットした楽曲も存在します。戦後には、「日本語の美しさを歌う独唱会」など、日本の歌曲の普及にも尽力しました。

教育者としても、内田栄一は大きな足跡を残しました。東洋音楽専門学校（現東京音楽大学）、自由学園、日本大学、東邦音楽大学などで講師や教授を務め、多くの後進を育成しました。東邦音楽大学名誉教授の称号も授与され、その功績が認められました。

1983年には勲四等旭日小綬章を受章し、その生涯に渡る音楽活動と教育活動が評価されました。晩年は急性骨髄性白血病と肺炎を併発し、1985年に84歳で逝去しました。多磨霊園に眠る彼の功績は、日本の音楽史に燦然と輝くものと言えるでしょう。彼の残した膨大な音源は、国立国会図書館歴史的音源にも65件以上が収録されており、その音楽的遺産は現在もなお、多くの人々に感動を与え続けています。

もう一度検索