准大臣

准大臣（じゅんだいじん）とは

准大臣とは、日本の朝廷において、大臣に準ずる待遇を受けた者、あるいはその称号を指します。唐名として儀同三司（ぎどうさんし）という名も用いられました。三位以上の公卿に対し、大臣の下、大納言の上の席次を与えることで、これに準じた待遇としました。

准大臣の沿革

藤原伊周と准大臣の起こり

准大臣の初例は、平安時代中期の藤原伊周に見られます。藤原道長との政争に敗れた伊周は、内大臣を罷免され大宰権帥に左遷されましたが、後に帰京。しかし、当時の政権の状況から大臣への復帰は困難でした。

そこで、寛弘2年（1005年）に伊周は参内時に「大臣の下、大納言の上」に着席することとなり、寛弘5年（1008年）には大臣に准じて封戸1000戸を与えられることとなりました。伊周は自らの待遇を、中国の故事に倣い「儀同三司」と表現しました。

ただし、伊周が用いた儀同三司はあくまで自称であり、公的なものではありませんでした。同時代の貴族たちは彼を「帥」や「前帥」と呼んでおり、正史である『日本紀略』にも「前大宰権帥」と記載されています。しかし、文芸の世界では「儀同三司」という表現が好んで用いられました。

堀川基具と准大臣の復活

藤原伊周の死後、准大臣の待遇はしばらく途絶えていましたが、鎌倉時代に堀川基具によって復活します。弘安6年（1283年）に従一位に叙せられた基具は、弘安7年（1284年）に大納言を辞任。その後、大臣の下、大納言の上に列して朝参すべき旨の宣下を受けました。これが准大臣の復活です。

基具の受けた待遇は伊周の場合とは異なりましたが、彼は伊周にならって自らを儀同三司と称しました。これ以後、准大臣は称号として定着し、儀同三司は准大臣の唐名として用いられるようになりました。

基具は太政大臣になれる家格である清華家の出身であり、大臣に昇進してもおかしくない立場でしたが、当時の状況から昇進の機会に恵まれませんでした。そのため、不遇をかこっていた基具を慰撫する目的で、准大臣の待遇が復活されたと考えられています。

しかし、旧儀の突然の復活に周囲は当惑し、混乱や批判が起こりました。准大臣が現職の大臣なのか、単に前大納言なのかが問題となり、最終的に前大納言という結論に落ち着きました。基具自身は、儀同三司を大臣に准じた官職であるとして、この裁定に不満を示していたようです。

公家社会の家門確立と昇進経路の変化

准大臣への補任は、大臣になれる資格がありながら空席がない者を慰撫する目的で運用されたとする説が一般的でした。しかし、実際には、大臣に空席が生じても准大臣が自動的に大臣に昇進できるわけではありませんでした。

鎌倉時代後期に宣下された准大臣は、摂関家庶子か清華家庶流出身者がほとんどでした。当時の公家社会では家格の峻別と固定化が進み、嫡子・嫡流と庶子・庶流の区別が明確化され、昇進にも格差が設けられるようになっていました。准大臣は、そのような状況下で、能力のある庶子・庶流の登用を完全に排除しないための妥協策として導入されたと考えられています。

准大臣の宣下を受けるための要件は、従一位であること、そして大納言または権大納言を経ていることの2点でした。准大臣にするために、わざわざ従一位に叙したり大納言を辞任したりする例も少なくありませんでした。

准大臣宣下と源氏長者の関係

堀川基具は、准大臣になる直前に従一位大納言として源氏長者を兼ねていました。当時の氏長者は一門のうち最も高い地位にある者が任じられるのが慣例でしたが、堀川基具は准大臣となることで引き続き一門上首であり続けることを期待していたと考えられています。

准大臣の定着と変質

南北朝時代になると、准大臣の宣下の目的が大きく変化します。本来なら大臣になる資格のない名家出身者を特別に優遇するために用いられることになったのです。

その初例は、後醍醐天皇の時に股肱の老臣吉田定房に行われました。その後、准大臣宣下の対象は同列の羽林家出身者にも広げられましたが、摂関家・清華家から准大臣が出る例はほとんどなくなりました。従一位に叙されて准大臣宣下を受けることが、名家・羽林家にとって現実的な極官とみなされるようになったのです。

なお、准大臣は官職ではないため、史料に必ずしも網羅されておらず、宣下を受けた者の全容は容易に知ることができません。

准大臣と知太政官事の混同

中世の故実書では、知太政官事を准大臣と同じものとして扱っているものがありますが、准大臣があくまで待遇であるのに対し、知太政官事は官職であり、太政官の総裁として皇族のみが就任した重職であるため、両者は全く異なるものです。

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