函谷関

函谷関：古代中国を東西に分けた要衝の歴史

函谷関は、中国河南省に存在した歴史的な関所であり、古くから中原と関中を結ぶ交通の要衝として知られてきました。その戦略的な位置から、多くの戦いの舞台となり、数々の歴史的逸話や故事に彩られた場所でもあります。しかし、函谷関という名称の関所は、時代や政治情勢の変化に伴い、場所を移転したり、複数の関所が併用されたりしました。そのため、大きく分けて「旧関」と「新関」の2つの函谷関が存在したと言えるでしょう。

旧関：秦の函谷関

旧関は、現在の河南省三門峡市霊宝市付近に位置していました。紀元前361年、秦の孝公が東方からの侵入を防ぐ目的で築城したとされています。黄土層の切り立った崖の中を街道が通る地形から、「函」のような形をしていることからこの名が付けられたと言われています。 この地域は、地理的に複雑な地形であり、崤山から潼津にかけての広い範囲を「函谷関」と呼ぶこともありました。歴史地理学者である塩沢裕仁氏は、「桃林塞」「函谷関」「潼関」を一つのまとまりとして捉え、現在の潼関県から河南省三門峡市霊宝市までの広範囲が「函谷関」と呼ばれていたと指摘しています。

旧関は、多くの戦闘の舞台となりました。紀元前318年には楚・趙・魏・韓・燕の五国連合軍が攻撃しましたが、秦の樗里疾によって撃退されました。また、始皇帝もこの函谷関で敵軍を打ち破ったと言われています。秦末期の反乱では、劉邦が函谷関を迂回し、南の武関から関中に侵入して咸陽を陥落させたことは有名です。その後、楚漢戦争で破壊され、前漢代に新安に移転しました。旧関の道路はその後衰え、主要な交通路としては使われなくなりましたが、老子が『道徳経』を著した地とされていることから、唐代には太始宮という道観が建立されました。現在では、王垛村付近に旧関の遺構の一部が残っており、「函谷関古文化旅游区」として整備されています。

魏の函谷関も旧関周辺に存在していました。曹操が食糧輸送路として開いた新道に関所が設置され、当初は「大崤関」「金関」と呼ばれ、後に「魏函谷関」と呼ばれるようになりました。その後廃墟となっていましたが、後に再建され、日中戦争で破壊されるまで存在しました。三門峡ダムの建設により水没したと思われていましたが、2014年に遺構が発見されました。

新関：漢の函谷関

新関は、現在の河南省洛陽市新安県付近に位置していました。前漢の武帝の時代に、旧関の東へ約100キロメートルの場所に新たに築城されました。2層の楼閣と高さ66メートルの城壁を持つ堅固な関所でした。前漢時代は長安、後漢時代は洛陽を守る重要な防備拠点として機能しました。新関の移転については、『通典』に、楼船将軍の楊僕が関外の人であることを恥じ、私財を投じて関の東への移転を請うたという説話が記されています。

新関は、北周が北斉に対抗するために前線基地として利用した時期もありました。明・清時代には関楼が設けられ、北洋軍閥の衝突で損傷した際には修復されるなど、長く重要な役割を果たしました。しかし、毛沢東時代の1958年、大躍進政策の一環として行われた製鉄事業のため、関楼のほとんどは解体され、多くの歴史資料が失われました。近年、世界遺産登録を目指した環境整備や発掘調査が行われ、城壁や古道などの遺構が確認されています。現在、漢代の函谷関は「シルクロード：長安-天山回廊の交易路網」の一部として世界遺産に登録されています。

文学における函谷関

函谷関は、歴史的な関所としてだけでなく、文学作品にも数多く登場します。『史記』では、老子が函谷関で尹喜に『道徳経』を著したと伝えられています。また、孟嘗君の故事「鶏鳴狗盗」の舞台としても有名です。日本の祇園祭の山鉾のひとつ「函谷鉾」は、この故事に由来しています。日本では、箱根峠が函谷関に例えられることがあり、唱歌『箱根八里』にも歌われています。

まとめ

函谷関は、古代中国の歴史において重要な役割を果たした関所です。旧関と新関という二つの関所が存在し、それぞれが時代の変遷とともに変化し、様々な歴史的出来事の舞台となりました。現在では、その歴史的意義が認められ、世界遺産の一部として保護されています。函谷関の歴史を知ることは、古代中国の歴史、文化、地理を理解する上で非常に重要です。

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