初期アッシリア時代

初期アッシリア時代

初期アッシリア時代は、アッシリアの歴史における最初期の段階であり、本項ではプズル・アッシュル1世（在位：前2025年頃）の下でアッシリアが独立した都市国家となる時代（古アッシリア時代）までを解説します（アッシュル市の歴史、そこに暮らした人々とその文化を含む。）。

史料の少なさ

初期アッシリア時代の物質的・文学的史料はほとんど現存していません。しかし、アッシュル市で発見された最初期の考古学的史料はメソポタミアの初期王朝時代（前2600年頃）のものであり、この地域には数千年前から人が居住していたことやニネヴェのような近隣の都市が非常に古い時代から存在していたことから考えて、アッシュル市の創建ももっと古くまで遡る可能性があります。

アッシュル市の起源

アッシュル市の最初期の考古学的史料から、アッシュル市には元来フルリ人が居住しており、この都市は女神イシュタルへの豊穣祈願の儀式が行われる場所であったと見られます。「アッシュル」という名前が歴史に初めて登場するのは前24世紀のアッカド帝国の頃であり、この都市は元々はバルティル（Baltil）と呼ばれていたかもしれません。この名前は後の時代にアッシュル市の最も古い地区の名前として使用されています。アッカド帝国の勃興以前のある時点で、セム語を話す人々（後のアッシリア人の祖先）が元々の居住者を追放または同化して、アッシュル市やその周辺の地域に定着しました。宗教的・戦略的な要地に立地していたアッシュル市は、都市それ自体が初期アッシリア時代の間に徐々に神格化され最終的に擬人化されたアッシュル神となりました。そしてこの神は古アッシリア時代には揺るぎない国家神となりました。

政治史

初期アッシリア時代の間にアッシュル市が独立した勢力となっていたことを示す史料は存在しません。メソポタミアの初期王朝時代においてアッシュルはシュメル人から強い影響を受け、しばらくの間シュメルの都市国家キシュの覇権の下にありました。前24世紀から前22世紀にかけてアッシュル市はアッカド帝国の一部となり北部メソポタミアの行政拠点となりました。後のアッシリアの諸王はこの時代を黄金時代とみなしました。初期アッシリア時代の終盤にはアッシュル市はシュメルの帝国であるウル第3王朝（前2114年-前2004年頃）の辺境都市となっていました。

アッカド帝国の支配

アッカド帝国は最初の統治者サルゴン（在位：前2334年頃-前2279年頃）の治世にアッシュル市を征服したと見られています。マニシュトゥシュ（在位：前2270年頃-前2255年頃）に捧げられた同時代の諸碑文がこの都市から発見されていることから、少なくとも彼の時代以降にはアッカド帝国がこの都市を支配下に置いていたことは確実です。アッカド時代のヌジで発見された文書ではアッシュル市はアッカド帝国下の重要な現地拠点、行政の中心として描かれており、頻繁にアッカド帝国の役人が配置されていました。アッシュル市にはまた宮殿も建設されました。この宮殿はアッカド王ナラム・シンがテル・ブラクに建設した宮殿とよく似ています。

ウル第3王朝の支配

アッカド帝国の崩壊から1世紀以内に、南メソポタミアはシュメル人のウル第3王朝（前2112年頃-前2004年頃）によって再統一されました。ウルの支配者たちはアッカド帝国ほどには北メソポタミアに関心を持っていませんでしたが、この地域に遠征を行って征服しアッシュル市に対する支配を確立しました。直接統治された南メソポタミアとは違い、アッシュル市のような辺境の都市は総督たちの支配下に置かれ、彼らによる軍事行政が忠誠と貢納を確保しました。

アッシリア王名表

初期アッシリア時代の独立したアッシリアの支配者については何の史料も無いが、『アッシリア王名表』（遥か後の時代にアッシリアの君主を順番にリストした文書）には、プズル・アッシュル1世以前の29人の王たちが掲載されています。しかし、彼らは同時代史料からは確認されていません。

考古学的発見

初期アッシリア時代のアッシュルの居住形態についての現存史料はほとんどありません。初期のアッシュルから出土した僅かな考古学的史料には泥レンガで建設された2つの神殿の遺構があり、いずれもイシュタルに捧げられたものです。これらの神殿と合わせて、アラバスターで作られた87体の礼拝者像が回収されました。これらは高さ20センチメートルから65センチメートルで、男女双方のものがあります。これらの像の様式は初期王朝時代II期およびIII期のシュメルの人物像と類似しています。

社会

物的証拠のみに基づいてアッシュル市の初期の住民の民族構成について信頼性のある推定を行うこと不可能であるが、住民の構成が同質的なものであったとは考え難いです。初期アッシリア時代のアッシュルの住民は大部分は部族的な集団であったと思われ、恐らくはアッカド語など、主としてセム系の言語をかなり早期の時代から話していたであろう。

宗教

アッシュルの初期の神殿はイシュタル女神に捧げられており、Ishtar HおよびG神殿からいくつもの裸婦像が発見されていることと合わせて、初期アッシリア時代のアッシュルでは豊穣祈願の儀式が熱心に行われていたと見られます。イシュタルはヌジや周辺の都市に居住していた早期のフルリ人の神々の中で第一の存在でした。

古アッシリア時代にアッシリアの国家神アッシュルが崇拝されたことは良く証明されていますが、初期アッシリア時代のアッシュル神崇拝については確固たる証拠は存在しません。アッカド時代の文書では都市アッシュルと神アッシュルが明確に同一の名前を共有しており、これが最古のアッシュル神に対する間接的な言及です。

アッシュル神は都市アッシュル自体を擬人化し、神格化したものであると考えられています。恐らく、アッシュル市があった場所は都市の建設以前から聖地であり、その戦略的な重要性のために人々が住み着き、初期アッシリア時代のいずれかの時点で徐々にその場所自体が神と見なされるようになっていったのでしょう。

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