別離の巡礼

イスラーム教における別離の巡礼（حجة الوداع, ḥijjat al-wadāʿ）

別離の巡礼は、ヒジュラ暦10年（西暦632年）に預言者ムハンマドが行ったこの宗教の歴史における初めてで最後の巡礼として知られています。この巡礼中に見せた儀礼の手順や行為は、後のすべてのムスリムに及ぶ礼拝の基準となりました。また、ムハンマドによる説教も、イスラームの教えを強化する重要な役割を果たしました。

巡礼の準備

ムハンマドは、メッカでの迫害を避けてヤスリブ（後のマディーナ）に逃れた後、神から巡礼の義務を啓示されます。巡礼を実行できる日は何度も試みられましたが、実際の巡礼はヒジュラの後10年目に行われました。この日、マディーナやその周辺から多くの信者がムハンマドに同行し、彼の出発を共に祝いました。出発前に、一緒にマディーナを守るようアンサールのアブー・ドゥジャーナに指示し、ズルキアダの25日にマッカへ向かいました。ムハンマドの妻たちも共に旅をしました。

斎戒と儀式の開始

マッカに到着する前に、ムハンマドは巡礼に入るための水場で斎戒を行うように人々に教えました。彼はグスル（身を清める儀式）を経て、白い布をまとい、組み合わせのない衣が彼の象徴となりました。この衣装は、後に彼の墓に使われることになる重要なものでした。

サイ（捜し物）の儀式

巡礼の翌日、ムハンマドは教友たちと共にカアバへと向かい、黒石に触れてその周りを周回しました。周回の後、ムハンマドはいくつかの礼拝を行い、ザムザムの泉の水を飲んだ後、サファーとマルワの丘に移動しました。ここで「サイ」— ハガルが水を探して丘を行き来した伝承に基づく行い — を行いました。

アラファの丘での説教

巡礼の過程で、ムハンマドはミナーへ赴き、その後アラファの丘で大勢の巡礼者たちに向かって「最後の説教」として知られる重要なメッセージを伝えました。この説教では、信仰の五柱が確認され、ムスリムにとっての行動規範が明確に示されたとされています。

悪魔への石打ちと犠牲祭

続いて、ムハンマドは悪魔への石打ちの儀式を行うため、ミナーへ移動しました。ここで、彼は自らの年の数だけのラクダを犠牲にし、その肉を巡礼者たちに分け与えました。その後、ミナーでの最後の儀式を経て、アラファで再度の祈祷を行いました。

マディーナへの帰還

巡礼を終えた後、ムハンマドはマディーナに戻る途中、ガディール・フンムで再度長い説教を行いました。この説教では、アリーが後継者となるべきであるという意義が強調され、シーア派にとっての重要な出来事とされています。彼の死期が近いと悟ったムハンマドは、別離の巡礼を通じて、後世の人々に自身の行動を記憶させる意義を持ったと考えられています。

まとめ

別離の巡礼は、数多くのサハーバ（預言者の友人）によって記録され、豊富なハディースが残されています。彼らはムハンマドの言動を厳密に観察し、その一挙手一投足に基づいた信仰の基盤を築きました。この巡礼は、単なる宗教的儀式を超え、後世のムスリムにとっての教訓や規範を与える重要な出来事となったのです。

もう一度検索