前乃臻康夫

前乃臻康夫（まえのしん やすお）は、1961年4月17日に福岡県嘉穂郡筑穂町（現在の飯塚市）で生まれました。高田川部屋に所属し、本名を沢辺康夫（さわべ やすお）として、最高位は東小結にまで昇りつめました。左四つを得意とし、寄りや上手投げで観客を魅了しました。現役時代の体格は185cm、137kgで、血液型はB型でした。

高田川親方（元大関・前の山）が育てた初めての十両、幕内、三役力士であり、そのハンサムなルックスから、元小結・龍虎を彷彿とさせる人気力士でした。父親は西鉄バスの運転手で、同じ筑豊地区出身の益荒雄の父親も同様でした。

中学時代には福岡県立嘉穂農業高校（現在の福岡県立嘉穂中央高校）相撲部からスカウトを受けましたが、角界入りへの強い思いから中学卒業後に高田川部屋に入門しました。1977年3月場所に初土俵を踏み、同期には後に幕内力士となった恵那櫻や佐賀昇がいました。

1985年11月、地元九州場所で新入幕を果たしました。その後、幕内下位や十両での活躍が続きましたが、1987年5月場所以降は幕内に定着しました。同年7月場所では、東前頭8枚目で11勝4敗の好成績を収め、敢闘賞候補に挙がりました。しかし、同成績のベテラン出羽の花が受賞し、生涯唯一の三賞獲得の機会を逃しました。翌場所には、自己最高位となる東小結に進出しましたが、4勝11敗と大きく負け越しました。しかし、その場所で横綱・大関戦唯一の勝利を大関・大乃国から挙げるという殊勲もありました。大乃国は、この場所を13勝2敗で終え、後に横綱へ昇進しているため、価値のある勝利でした。

三役経験はこの1場所のみで、その後は幕内に定着することができず、再び十両に降格。現役晩年は幕下3枚目まで番付を下げ、1990年3月場所を最後に28歳の若さで引退しました。幕内経験はわずか10場所でしたが、大雄や肥後ノ海のように40～50場所以上幕内に在籍しても三役昇進を果たせなかった力士もいる中で、10場所の幕内経験で三役まで昇進したのは幸運だったと言えるでしょう。

引退後は年寄・山響を襲名し、相撲協会の運営に携わっていましたが、1996年11月場所後に失踪。翌年1月場所中も姿を現さなかったため、同年1月31日に職務放棄として相撲協会から解雇されました。現役親方が解雇されたのは史上初の事例でした。失踪の原因は、山響の名跡取得に関する金銭問題だったとされています。結局、山響の名跡は二子山親方（元大関・貴ノ花）が取得しました。

失踪後の動向は不明でしたが、2009年5月31日には、定年を間近に控えた師匠の高田川親方や部屋関係者と共に「高田川御夫妻を囲む会」に姿を現しました。1996年末から2009年までの動向は不明のままですが、失踪状態ではなくなったと見られています。しかし、「高田川御夫妻を囲む会」参加後の動向は再び不明です。

主な成績としては、通算成績は412勝407敗7休で、勝率は.503。幕内成績は62勝88敗、勝率は.413。現役在位は78場所、幕内在位は10場所、三役在位は小結1場所でした。三賞受賞はありません。連続出場記録は819番（序ノ口以来、1977年5月場所-1990年1月場所）です。

前乃臻は、三役を経験しながら幕内在位が10場所にとどまりました。これは、年間場所数が増えた戦後では、沢光の7場所、白馬の8場所に次いで少ない記録です。戦後に入幕し、三役に進んだ力士の中で、幕内在位場所数の少ない順に並べると、以下の通りです。

1位：沢光（7場所）
2位：白馬（8場所）
3位：前乃臻（10場所）
4位：大豊（13場所）
5位：若荒雄（14場所）

ちなみに、この5人全員が三役経験は小結1場所のみです。

改名歴としては、前の海康夫（1977年5月場所 - 1981年5月場所）、沢辺康夫（1981年7月場所）、前乃臻康夫（1981年9月場所 - 1988年9月場所）、前乃森康夫（1988年11月場所 - 1990年3月場所）と変遷しています。年寄としては、山響康夫（1990年3月16日 - 1997年1月31日）を名乗っていました。

参考文献には、『戦後新入幕力士物語 第5巻』（著者：佐竹義惇、発行元：ベースボール・マガジン社）のp79-p84が挙げられます。また、関連項目として、小結一覧や山響があります。

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