前衛座

前衛座：激動の時代を駆け抜けた演劇集団

前衛座は、1920年代後半に存在した日本の劇団です。その短い活動期間にもかかわらず、日本の演劇史に大きな足跡を残しました。前衛座の歴史は、社会運動と芸術活動が密接に結びついていた当時の時代背景を色濃く反映しています。

トランク劇場から前衛座へ

前衛座のルーツは、1925年12月に日本プロレタリア文芸連盟の演劇部が結成されたことに始まります。翌1926年2月、共同印刷争議を支援するため、佐々木孝丸らが武者小路実篤作の「ある日の一休」を上演したのが、移動劇団「トランク劇場」の始まりです。この名称は、小道具をトランクに詰めて各地を巡回したことに由来します。同年10月には、久板栄二郎作「犠牲者」を上演し、佐野碩、千田是也、関鑑子、柳瀬正夢、小野宮吉らが参加し、トランク劇場は正式に発足しました。

1926年11月、日本プロレタリア文芸連盟が日本プロレタリア芸術連盟（プロ芸）に改組されると、同年12月、佐野碩、村山知義、千田是也らが中心となり、小石川駕籠町の佐野邸で創立総会を開き、「前衛座」が結成されました。同月には、築地小劇場で第1回公演としてアナトリー・ルナチャルスキー作「解放されたドン・キホーテ」を上演し、その活動を開始しました。

分裂と再編

前衛座の活動は、当時の政治状況の影響を受け、その組織は分裂と再編を繰り返しました。1927年6月には、山川均の労農派の影響を受け前衛座は分裂し、村山知義、千田是也、蔵原惟人らが労農芸術家連盟（労芸）を結成しました。前衛座も労芸に属し、一方、プロ芸に残った佐野らは「プロレタリア劇場」を名乗りました。

さらに同年11月、労芸も分裂し、村山知義らの前衛芸術家同盟（前芸）が結成され、前衛座は前芸に属し、「前衛劇場」と改称しました。

1928年3月、日本プロレタリア芸術連盟と前衛芸術家同盟が合同し、全日本無産者芸術連盟（ナップ）が結成されました。これに伴い、前衛劇場は同年4月、第3回公演としてゲアハルト・ハウプトマン作「フロリアンガイエル」を上演した後、プロレタリア劇場と合同し、東京左翼劇場として再出発することになりました。前衛劇場とプロレタリア劇場の合同第1回公演では、藤森成吉作「磔茂左衛門」と鹿地亘作「嵐」が上演されました。こうして、「前衛劇場」は発展的に解消され、その歴史に幕を閉じました。

前衛座の主な舞台

前衛座の活動期間は短かったものの、数々の重要な舞台作品を発表しました。

前衛座第2回公演：『手』（前田河広一郎作）、『プリンスハーゲン』（アプトン・シンクレア作）
前衛座大阪京都公演：『カイゼリンと歯医者』（村山知義作）
前衛座第3回公演：『ロビンフッド』（村山知義作）
前衛劇場第2回公演：『時は来たらん』（ロマン・ロラン作）、『偽造株券』（藤森成吉作）
前衛劇場：『スカートをはいたネロ』（村山知義作）、『偽造株券』（藤森成吉作）
前衛劇場第3回公演：『フロリアン・ガイエル』（村山知義作）

前衛座が残した遺産

前衛座は、その短い活動期間にもかかわらず、日本の新劇運動に大きな影響を与えました。この劇団から、演劇に本格的に関わるようになった多くの人々が、その後の新劇運動の中心的な指導者、映画、演劇、美術などの芸術家や技術者として活躍しました。前衛座の活動は、当時の社会情勢と芸術活動の密接な関係を示す貴重な事例であり、その遺産は今日の演劇界にも受け継がれています。

参考文献

村山知義「一つの足跡--トランク劇場から新協劇団まで」『民主評論』1948年9月
村山知義「トランク劇場から新協劇団まで」『民主評論』1948年10月
佐藤誠也「トランク劇場の誕生」『悲劇喜劇』1961年4月
松本克平「『或る日の一休』とトランク劇場 (武者小路実篤の戯曲<特集>)」『悲劇喜劇』1980年11月
宅昌一「前衛座の思い出-1-」『テアトロ』1978年5月
宅昌一「前衛座の思い出-2完-」『テアトロ』1978年7月

もう一度検索