副将軍

副将軍とは

副将軍とは、日本において大将軍あるいは将軍の次席に位する武官の職のことです。律令制から江戸時代にかけて、その役割や意味合いは時代とともに変化してきました。

律令制下の副将軍

律令制下では、大将軍、将軍、副将軍という序列が定められていましたが、実際には大将軍の下に将軍を介さず副将軍が置かれることもありました。また、副官として権副将軍という官職も存在しました。

軍防令によると、兵一万人以上の出征時には将軍一人、副将軍二人を置くと定められています。しかし、実際の任命は規定通りではなく、副将軍の人数は一人から数人と幅がありました。また、大将軍の下に将軍が置かれず、直接副将軍が置かれることが一般的でした。

例えば、推古天皇8年（600年）には穂積祖足が征新羅副将軍に任ぜられ、新羅を攻めて5つの城を攻略し降伏させています。延暦3年（784年）には大伴弟麻呂が征東副将軍に任ぜられ、その翌年には大伴家持が持節征東将軍に任ぜられ蝦夷討伐の軍を発しています。さらに延暦13年（794年）には、坂上田村麻呂が征夷副将軍に任ぜられています。

蝦夷征伐が一区切りつくと、将軍・大将軍の任命が減り、副将軍の任命も稀になりました。平安時代中期には、承平天慶の乱の際に経基王が征夷副将軍に任ぜられた記録が残っています。

鎌倉・室町幕府における副将軍

鎌倉幕府では、副将軍が任ぜられることはありませんでした。しかし、北条氏の惣領である得宗が事実上「副将軍に当たる存在」と見なされていたという見方もあります。

室町時代には、足利尊氏の弟である足利直義が征夷副将軍に任ぜられたり、上杉禅秀の乱の鎮圧に功績があった今川範政が副将軍に任ぜられたという記録があります。また、足利義尚の時代にも斯波義寛が副将軍に任ぜられたとされています。

室町後期の関東では、古河公方に対抗した足利義明が関東副将軍を自称したとされています。

足利義昭による任命例

15代将軍・足利義昭は、織田信長の将軍職就任への功績に対し、副将軍または管領職への就任を要請しました。朝廷も信長に副将軍就任を打診しましたが、信長はこれを辞退しています。

後に義昭が毛利氏の庇護下に入ると、毛利輝元を副将軍に任じ、幕府の再建を目指しました。輝元は副将軍として義昭を庇護することで、毛利軍を公儀の軍隊の中核として位置づけ、西国の諸大名に対する正統性を確保しようとしました。

江戸時代における副将軍

江戸幕府には「副将軍」という役職は存在しませんでした。しかし、徳川御三家の一つである水戸徳川家は、「天下の副将軍」または「水戸の副将軍」と呼ばれることがありました。これは、水戸家が参勤交代せずに常に江戸に留まる定府を義務付けられていたことや、将軍の補佐役としての色彩が強かったことなどが理由とされています。

「副将軍」は水戸家に対する正式な呼称ではなく、あくまで俗称でしたが、幕府も半ば黙認していました。水戸徳川家の出身である徳川慶喜が大政奉還を行ったことで、副将軍の職および呼称は完全に消滅しました。

現代のフィクションにおける「副将軍」

水戸徳川家の当主が「天下の副将軍」と称されたことから、時代劇「水戸黄門」では徳川光圀が「天下の副将軍」として描かれています。このドラマの人気により、徳川光圀＝天下の副将軍という認識が広まりましたが、これはあくまでフィクションです。

現在、水戸藩の旧領地では、光圀にちなんで「副将軍」と称する地酒や産物が販売されており、「水戸の副将軍」という呼称はブランドとしても用いられています。

また、山岡荘八の小説『伊達政宗』およびこれを原作とするNHK大河ドラマ『独眼竜政宗』では、伊達政宗が将軍徳川秀忠に対する御意見番の意味で「天下の副将軍」と呼称されています。

まとめ

副将軍は、時代によってその役割や意味合いが変化してきた役職です。律令制下では軍事的な役割を担い、室町時代には政治的な意味合いを持つこともありました。江戸時代には公式な役職としては存在しませんでしたが、水戸徳川家が「天下の副将軍」と呼ばれるなど、人々の認識の中にその名残をとどめています。現代では、フィクション作品や地域ブランドとして、その名が使われています。

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