創造科学

創造科学とは

創造科学とは、進化論が科学的根拠に乏しいという主張に基づき、聖書の記述、特に『創世記』に記された天地創造の記述を文字通りに解釈し、科学的にそれを説明しようとする一連の説や学説です。この立場を取る人々は「創造科学者」と呼ばれます。彼らは、「神学が科学を判断すべきである」と主張する一方で、自然科学者や科学哲学者は創造科学を「科学の基準を満たさない疑似科学」と見なしています。

創造科学の概要

創造科学は、創造論から派生したもので、聖書（主に『創世記』）に記述されている創造主による天地創造は、文字通りの事実であると主張します。地球や宇宙の誕生に関する事象は、聖書の記述と整合性を持って説明できるとします。この説は、聖書への信仰を基盤としており、「科学は単なる道具に過ぎない」と考えます。しかし、反証可能性がないことから、反対の立場からは疑似科学と批判されています。

創造科学の説によれば、宇宙と世界は約6000年前に創造主によって創造されたものであり（若い地球説）、数十億年に及ぶ宇宙と地球の歴史とする現代の自然科学の宇宙論の通説は誤りだと主張します。また、生物が変異し分化してきたとする進化論とは対立します。

創造科学説の内容（主張内容）

ノアの洪水

創造科学では、ノアの洪水の原因を、『創世記』1章7節の記述を根拠に「大気の上空にある熱圏に非常に密度の高い水蒸気の層があり、それが雨となって地上に降り注ぎ、大洪水となった」と説明します。

洪水の水がどこへ行ったかという疑問に対しては、「近年、マントル層に大量の水分が含まれていることが解明されており、おそらく大洪水の水は地中へと流れて行ったと思われる」と回答しています。また、洪水以前の地表は比較的なだらかであり、全ての山を水没させるのに必要な水の量は、現在の環境を基に考えるよりも少なかったと主張します。

化石の生成

通常の生物は死後、微生物によって分解されますが、化石として発見される生物の中には、生きた状態のまま石化したものがあります。創造科学者は、このような化石は「大洪水という環境の激変時に、短時間で大量の土砂と水で覆われ、高圧下で密封された結果である」と主張します。そして、世界中で発見されるこのような化石が、大洪水の信憑性を物語るとします。

自然科学では、化石は地層の下層に下等な生物が多く、上層には高等な生物が多く発見されることから、生命が下等なものから高等なものへと進化してきた証拠と見なします。一方、創造科学では、これらの化石は「大洪水の激変時に、知能や移動能力のある生物ほど、水を避けて上層に逃げた結果である」と解釈します。さらに、「新旧の地層が逆転していたり、異なる時代のはずの地層を貫く樹木の化石が発見されている」と指摘し、地層の年代順の法則に疑問を投げかけます。

洪水後の地球環境

創造科学では、『創世記』10章25節を根拠に、大洪水後の地殻変動について説明します。洪水後、急激に冷却された地表では、地中との温度差によりマグマの対流が起こり、地殻に亀裂が生じ、プレートが形成され、プレートテクトニクス現象によって大陸が分離し、高い山脈が形成されたとします。また、洪水の際に、両極付近から起こった冷却は非常に瞬間的であり、シベリアの永久凍土で発見されたマンモスの保存状態の良さがその証拠だと主張します。

洪水以前の地球環境は、水蒸気層の重みによる高気圧（現在の2.2気圧程度）であり、巨大な恐竜などの存在を説明できるとします。例えば、成長したティラノサウルスは、足の大きさから約7トンあるとされる体重を、現在の気圧下では支えられないだろうと指摘します。また、現在の大気圧では飛ぶことができない巨大な翼竜や、自重を支えられない巨大なシダ類の存在も、水蒸気層の存在なしには説明できないとします。

人類の堕落

創造科学は、創造主が完全な世界を創造したと信じますが、サタンに惑わされたアダムが罪を犯し、人間は罪の刑罰として死ぬ存在になったと説きます。全ての人間は原罪を持って生まれ、イエス・キリストが人類を罪から救うために十字架にかかり、復活し、再臨するとします。

創造科学は、24時間6日間の天地創造を信じる若い地球説を支持します。ただし、進化論を否定する福音派の中にも、若い地球説を支持しない立場があります。

創造科学自体に関する言及

創造科学の研究者は、「創造科学は、創造主の創造した事象を聖書から科学的に検証する観察科学であり、科学の範疇に入る」と主張します。また、「創造科学を支持する多くの専門家がいる」と主張します。

かつて、ガリレオ、コペルニクス、ケプラー、ニュートンといった科学者たちも、科学と聖書の記述は矛盾しないと考え、科学によって創造主の創造を解明できると考えていたと述べます。教会が彼らと対立したのは、古代の学者プトレマイオスらに代表される古典に基づく自然解釈を尊重した結果であり、「聖書そのものと科学は対立していなかった」と主張します。

創造科学は「創造論を支持する多くの証拠が存在する」と主張します。「進化論では、生物が環境に適応すると生殖的に隔離される種分化が起こるはずだが、ヒトの生息域が全世界に広がったにもかかわらずヒトの生殖的隔離は観察されていない。これは人間が神に似せて創られた特別な存在だからである」と述べます。

分布・組織

創造科学の支持者は、アメリカの保守的・伝統的な地域に多く存在しますが、日本などキリスト教文化圏ではない国や地域にも普及団体が存在します。

キリスト教における議論

進化論を否定する立場でも、創造科学を使用するとは限りません。改革派神学者は、キリスト教から離れた科学者の信頼性について議論し、科学は宗教的な中立性を持たず、前提によって決定されるとみなしています。アダムの罪によって堕落した人間は、堕落前の世界を理解できないため、一様性の原理を前提とする近代科学は堕落前のことを理解できないと指摘されています。

奥山実の解釈

教父学の専門家であるトーマス・トーランスは「科学は神学に基礎づけられるべき」と主張しました。奥山実はトーランスを引用しつつ、初代教会では聖書が真理の最高の規範とされ、聖書と科学は一つであったと述べています。しかし中世のローマ・カトリックはアリストテレスを受け入れ、聖書と科学を分断したと批判します。宗教改革は再び聖書と科学を一つに戻したとし、創造科学もその立場であると主張します。

創造科学に対する評価・反応や社会的な出来事

多くの自然科学者の評価

査読のある科学雑誌では、創造科学を支持する論文が掲載されることはなく、科学者で創造科学を認めている人はほとんどいません。主要な科学者団体は、創造科学を疑似科学と見なしており、聖書の記述が事実かどうかを科学的に検証することはできないと考えています。

アメリカへの影響

創造科学がアメリカで影響力を持つようになった背景には、ウィリアム・ジェニングズ・ブライアンの組織化が大きく関わっています。ブライアンは、社会進化論を反キリスト教的な理論と捉え、進化科学を公立学校で教えることを禁止する法律を推進しました。現在でも、この考え方は南部州を中心に根強く残っています。

裁判

創造科学の問題は、実際に裁判で争われています。1987年、アメリカ合衆国ルイジアナ州の法律についての裁判で、連邦裁判所は創造科学を科学ではないと判断し、法律に違憲判決を下しました。2005年には、ペンシルベニア州でも創造科学教育を導入しようとした学区に対し、連邦地裁が違憲判決を下しました。判事は、創造科学は宗教的見解であり、公立学校で宗教を教えることは違憲であると述べました。

日本での創造科学

日本における創造科学は、比較的新しい分野です。アメリカの福音派の影響を受けたという説もありますが、必ずしもそうではありません。近年、創造論に基づくキリスト教雑誌が複数刊行され、創造科学を支持する信者がわずかながら増加しています。

インテリジェント・デザイン

インテリジェント・デザインは、創造科学を基礎にしつつ、より多くの人々に受け入れられるよう、創造者を「偉大なる知性」と表現する理論です。特定の宗教に依存しないことを意図して提唱されていますが、創造科学と同様に、宗教色を隠しただけであり本質的な違いはないと批判されています。

風刺・皮肉・パロディー

創造科学を批判するために作られたパロディカルト宗教「空飛ぶスパゲッティ・モンスター教団」は、創造論者が「平等のために創造科学も学校で教えるべきだ」と主張することや、「創造者」を明言しない創造論支持者たちの姿勢を皮肉っています。

創造科学は、聖書を文字通りに解釈し、科学的な事実との矛盾を説明しようとする立場ですが、その主張は科学界からは疑似科学として批判されており、議論が続いています。

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