加藤咄堂

生涯

加藤咄堂（かとう とつどう）は、本名を加藤熊一郎といい、1870年（明治3年）に京都で生まれました。幼少期に家が没落したものの、地元小学校を経て仏教系英学塾で英語を学び、京都法律学校にも通いました。その後、代用教員を経て上京し、英吉利法律学校（現在の中央大学）で学びました。

文芸活動にも携わり、岩野泡鳴らと交流し、1881年に処女作『大聖釈迦』を自費出版しました。その後も、『仏教概論』『日本仏教史』など仏教関連の著作を精力的に出版しました。築地本願寺の積徳教校で教師を務めたことがきっかけで仏教を深く学び始め、大内青巒と親交を深め、仏教紙『明教新誌』の主筆を務めました。

明治30年代には、島田蕃根に師事し、太子信仰の上宮教会の講師として講演活動や執筆活動を行いました。また、雑誌「新修養」（後に「精神」と改題）や「こころ」を主宰しました。昭和3年には、中央教化団体連合会の理事として、仏教教化に尽力し、斉藤内閣の国民更生運動では、首相とともに全国を演説して回りました。

教育者としては、曹洞宗大学（現在の駒澤大学）、東洋大学、日本大学で教鞭を執り、後進の育成に努めました。仏教関係の著述・講演活動が評価され、宮内省から社会教化功労者として表彰されました。

1949年（昭和24年）4月2日、東京の自宅で亡くなり、赤羽の静勝寺に埋葬されました。

雄弁学の確立

加藤咄堂は、教化の方法としての弁論・演説に着目し、その研究と普及に尽力しました。佐藤拓司の研究によれば、加藤は雄弁学に関する単著を最も多く刊行した人物です。

1908年に刊行した『雄弁法』は、それまでの雄弁美辞法の系譜を受け継ぎながら、初めて雄弁学を体系的にまとめた著作と評価されています。1912年から雑誌『雄弁』に連載した「雄弁の新研究」では、思想内容の充実と聴衆心理の把握を重視した新たな雄弁学を提唱し、その発展に貢献しました。

しかし、1930年代に入ると、時局の悪化により弁論活動は制限され、雄弁学を取り巻く状況は厳しさを増しました。雄弁学の学校教科化や競技化が模索される中で、学生弁論の過激化が問題視され、その実現は困難になりました。

このような状況下で、加藤は時局に適応するための「雄弁道」を提唱し、1941年には「新体制と雄弁界の方向」において、独白や討論形式の雄弁から、複数人が対話する形式の雄弁へと移行する必要性を説きました。また、同年には「時局下の青年雄弁」において、自由な弁論を自粛すべきであると主張しました。

主な著作

加藤咄堂は、仏教、雄弁学、社会思想など幅広い分野で多数の著作を残しました。主な著書には、『大乗起信論講話』、『雄弁法』などがあります。また、晩年には、古典の解説や、道徳に関する著作も発表しました。

『大乗起信論講話』
『雄弁法』
『死生観　史的諸相と武士道の立場』
『菜根譚　味読精読前集　処世交際の道』
『菜根譚　味読精読後集　閑居田園の楽』
『味読精読 十七条憲法』
* 『維摩経入門釈義』

加藤咄堂の活動は、仏教思想の普及、雄弁学の発展、そして近代日本の社会と文化に大きな足跡を残しました。

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