加藤精一 (俳優)

加藤精一：日本の演劇・映画史を彩った名優

加藤精一（かとう せいいち）は、1889年4月11日に生まれ、1963年8月28日に没した、日本の俳優です。彼は新劇の黎明期から舞台俳優として活躍し、後に映画界でもその才能を発揮しました。本記事では、加藤精一の生涯と業績を詳細に解説します。

生い立ちと演劇との出会い

加藤精一は、岡山県上房郡高梁町（現在の高梁市）で生まれました。父親は熊本藩出身の漢学者でしたが、加藤精一が幼い頃に亡くなったため、加藤家へ養子に入りました。彼は地元の旧制高梁中学（現・岡山県立高梁高等学校）を卒業後、上京して早稲田大学英文科に進学。在学中には、小川未明、三木露風、北原白秋、西條八十といった著名な詩人たちと交流を深めました。

演劇との出会いは、早稲田大学在学中に坪内逍遙に師事したことがきっかけでした。1909年（明治42年）には、坪内が設立した文芸協会演劇研究所の第1期生となり、上山草人、山川浦路、森英治郎、横川唯治（山田隆弥、のちの山田隆也）、佐々木積、武田正憲、小林正子（松井須磨子）らと共に演劇の道を歩み始めます。

舞台俳優としての活躍

1911年（明治44年）3月、早稲田大学を卒業。同年5月には、帝国劇場で文芸協会の第1回公演として、ウィリアム・シェイクスピアの悲劇『ハムレット』（坪内逍遙訳）が全幕上演され、加藤精一はポローニアス役を演じて初舞台を踏みました。1913年（大正2年）6月には、帝国劇場での同協会第6回公演として、シェイクスピア悲劇『ヂユーリアス・シーザー』が日本初演され、主役のジュリアス・シーザーを演じるなど、初期の新劇界において重要な役割を果たしました。

文芸協会解散後、山田隆弥（のちの山田隆也）、佐々木積、森英治郎、吉田幸三郎、岡田嘉子らとともに舞台協会を設立。ジョージ・バーナード・ショーの戯曲『悪魔の弟子』や、ヴィルヘルム・フォン・ショルツの戯曲『負けたる人』などを上演しました。その後も、新文芸協会、同志座に参加し、田中智学の國性劇を主宰するなど、演劇への情熱を注ぎ続けました。

映画界への進出と新興キネマでの活躍

1925年（大正14年）、同志座在籍時に東亜キネマ甲陽撮影所が同志座と提携して製作した『潮』（監督：賀古残夢）に坂巻東吾役で主演し、映画デビューを果たしました。1929年（昭和4年）には、発声映画社大森撮影所（のちのミナトーキー）が製作した初期トーキー作品『大尉の娘』（監督：落合浪雄）に主演し、新派女優・初代水谷八重子と共演しました。

1936年（昭和11年）には、新興キネマに入社し、新興キネマ東京撮影所に所属。助演俳優として数多くの作品に出演しました。1941年（昭和16年）には、『愛の花束』で主演を務めました。また、同年には溝口健二監督の映画『元禄忠臣蔵 前篇・後篇』にフリーランス契約で出演し、小野寺十内を演じるなど、映画俳優としての地位を確立しました。

戦後と晩年

戦後は、1947年（昭和22年）に溝口健二監督の映画『女優須磨子の恋』に時代考証として参加しました。晩年は、胃潰瘍や脳血栓で倒れるなど体調を崩し、活動は制限されましたが、テレビ映画などにも出演しました。1963年（昭和38年）8月28日、脳溢血のため74歳で死去しました。

加藤精一は、日本の新劇の黎明期を支え、映画界でもその才能を発揮した名優として、その名は永く記憶されることでしょう。

もう一度検索