北条英時

北条英時（ほうじょうひでとき）は、鎌倉時代末期に活躍した北条氏の一門です。赤橋流北条氏の出身で、父は北条久時、兄に最後の執権である北条守時がいます。また、赤橋英時（あかはしひでとき）とも呼ばれていました。鎌倉幕府の滅亡という激動の時代に、最後の鎮西探題として九州の統治に尽力しました。

鎮西探題としての活動

元亨元年（1321年）12月25日、北条英時は鎮西探題に任命され、博多へと赴任しました。当時、鎌倉幕府の支配は揺らぎ始めており、討幕運動の波は九州にも押し寄せていました。英時は、幕府の命を受け、九州各地で発生する反乱勢力の鎮圧に奔走しました。

正慶2年/元弘3年（1333年）3月13日には、後醍醐天皇の綸旨を受け挙兵した菊池武時を、少弐貞経や大友貞宗らと共に撃破し、武時を討ち取るという戦果を挙げました。さらに、養子である肥前守護の規矩高政に、菊池氏や阿蘇氏といった反幕府勢力の追討を命じました。また、松浦氏にも大隅、野辺、渋谷などの反幕勢力への攻撃を指示するなど、九州各地で討伐作戦を展開しました。

しかし、これらの討伐作戦は、博多の防備を手薄にするという結果を招きました。同年4月7日には、安芸の三池氏らを招集し、博多の防衛にあたらせざるを得ない状況に陥りました。

滅亡

同年5月7日、京都の六波羅探題が足利尊氏らによって陥落したという情報が九州にまで伝わると、それまで幕府に従っていた少弐貞経や大友貞宗、さらには島津貞久らまでもが英時に反旗を翻し、攻撃を開始しました。孤立無援となった英時は、懸命に防戦しましたが、遂に5月25日、博多において金沢種時をはじめとする一族240名（または340名）とともに自害し、その生涯を閉じました。これは、鎌倉で北条高時をはじめとする北条一門が滅亡したわずか3日後の出来事でした。

人物像

北条英時は、武将としての能力だけでなく、和歌にも優れた教養人として知られています。彼の作品は、『松花和歌集』、『続現葉和歌集』、『臨永和歌集』などの歌集に数多く収録されており、鎌倉時代末期の九州二条派の和歌界において中心的な存在でした。また、英時の探題在任中に発給された約100通もの書状が現在も残されており、当時の歴史を知る上で貴重な資料となっています。

作家の吉川英治は、自身の小説『私本太平記』の中で、英時について「難治の地である九州で10年以上も探題職を務めた英時の能力と人望は、並外れていた」と評しています。さらに、足利尊氏が後に九州で勢力を盛り返した際、英時の義弟（尊氏の正室である赤橋登子は英時の妹）であったことが、九州の武士たちの心を動かす一因となった可能性を示唆しています。

このように、北条英時は、鎌倉幕府滅亡という激動の時代において、鎮西探題として九州の統治に尽力し、和歌にも才能を発揮した人物として、歴史に名を残しています。

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