島津貞久

島津貞久

島津貞久（しまづ さだひさ）は、鎌倉時代後期から南北朝時代にかけての武将で、島津氏の第5代当主です。薩摩・大隅・日向の守護大名として、その生涯は激動の時代を反映しています。

生涯

前半生

元服の際、鎌倉幕府第9代執権・北条貞時より偏諱を賜り、貞久と名乗りました。文保2年（1318年）には薩摩守護職を継承します。元弘3年（1333年）、元弘の乱において、足利高氏（後の尊氏）の倒幕の挙兵に呼応し、少弐貞経、大友貞宗と共に鎮西探題の北条英時を攻撃し、自刃に追い込みました。この功績により、大隅・日向の守護職にも補任され、島津氏は初代忠久以来、約130年ぶりに本貫地と見なしていた薩隅日三州を回復しました。

南北朝時代の開始

建武2年（1335年）、足利尊氏が後醍醐天皇に反旗を翻すと、貞久は一時九州に逃れた尊氏を支援し、多々良浜の戦いで菊池勢を撃退しました。これにより、室町幕府の成立に大きく貢献しました。しかし、彼の領国である三州では、谷山氏や肝付氏が南朝方として挙兵し、貞久は庶長子の川上頼久らを薩摩に派遣し、南九州では激しい南北朝の戦いが繰り広げられることになります。

従来、南九州では谷山氏ら薩摩平氏や肝付氏といった在地官人が勢力を持っていましたが、鎌倉時代に入り、島津氏や渋谷氏などの東国武士団が進駐し、在地勢力との間に軋轢が生じていました。その不満が、在地勢力を南朝方に傾かせ、守護島津氏との対立を深める要因となりました。

南朝勢力との戦い

康永元年/興国3年（1342年）、征西大将軍懐良親王が熊野水軍や伊予の海賊衆に守られ、鹿児島市南部の谷山城に入城すると、南朝方の結集軸となり、城主の谷山隆信をはじめ、各地の諸氏が谷山御所に集まり、勢いを盛り返しました。これにより、薩摩半島山南が南朝方の勢力下に入ります。貞久は谷山城を幾度も攻撃しますが落とすことができず、戦況は膠着状態に陥ります。正平2年（1347年）6月には、懐良親王率いる南朝方と熊野水軍が、貞久の本拠地である東福寺城を急襲しますが、辛うじてこれを撃退することに成功しました。

正平5年（1350年）、北朝方では尊氏方と直義方との間で内紛（観応の擾乱）が起こり、その間、貞久は直義方の畠山直顕とも戦う必要に迫られ、一時的に南朝の軍門に下らざるを得ない状況となりました。しかし、観応の擾乱が終結すると、再び北朝方に復帰しました。

室町幕府成立後

幕府方に復帰した貞久は、正平17年/貞治元年（1362年）に幕府へ申状を送っています。その中で貞久は、島津荘は薩摩・大隅・日向一帯を占める島津氏の本貫であり、3国の守護職は源頼朝から与えられたもので、大隅・日向の守護職は鎮西探題（北条氏）に貸したものに過ぎないと主張し、3か国守護であることの正当性を訴えました。

史実では、島津氏は比企能員の変で処罰された結果として、大隅・日向の守護職を没収されており、その支配はわずか数年に過ぎません。貞久の主張は史実とは異なりますが、この訴えは彼の後継者や島津氏の一族・家臣団に共有され、後世に伝えられました。そして、薩摩・大隅のみならず日向を支配するための理論的支柱として用いられることとなりました。

正平18年/貞治2年（1363年）、貞久は薩摩守護職を三男の師久（総州家）に、大隅守護職を四男の氏久（奥州家）にそれぞれ譲り、同年7月に95歳でその生涯を閉じました。両家は征西府・九州探題・今川了俊が存在する間は協力して外敵に対抗しましたが、共通の敵がいなくなると、やがて戦国時代の前触れのように互いに勢力を争うようになりました。

系譜

父：島津忠宗（1251 - 1325） - 島津氏4代当主
母：理玄夫人（三池道智の娘）
妻：栴林夫人（大友親時の娘）
次男：島津宗久（1322 - 1340） - 早世
三男：島津師久（1325 - 1376） - 島津氏6代当主、総州家祖
四男：島津氏久（1328 - 1387） - 島津氏6代当主、奥州家祖
母不詳
長男：川上頼久 - 川上氏祖
五男：島津光久 - 早世
六男：石坂氏忠 - 石坂久泰後嗣
女：祖鑑房
女：京子
女：祢々

関連事項

川上天満宮 - 貞久が北野天満宮から勧請して建立した神社。代々島津家の崇敬を受けた。

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