菊池武時

菊池武時は、鎌倉時代末期に活躍した武将であり、菊池氏の第12代当主です。菊池隆盛の次男として生まれ、幼名は正龍丸と称しました。祖父である菊池武房が亡くなった後、兄の菊池時隆が家督を継ぎましたが、叔父である菊池武本との対立により、時隆と武本が共に命を落としました。これにより、幼少であった武時が家督を継ぐこととなりました。

菊池氏の当主としての責務を果たすべく、武時は幼い頃から祖父伝来の弓矢の道に励むと共に、文学も嗜むなど、文武両道に秀でた人物として成長しました。

当時の九州では、元寇後の北条氏による支配が強化され、御家人たちの不満が高まっていました。元弘3年（1333年）、武時は博多に到着し鎮西探題に出仕しますが、遅参を理由に侍所から非難され、口論となります。その2日後の3月13日、武時はついに挙兵し、博多の各地に火を放ちました。少弐貞経や大友貞宗らに後醍醐天皇の綸旨を伝え、協力を求めましたが、両者ともこの呼びかけに応じませんでした。少弐貞経は武時の使者を斬り、大友貞宗も同様に斬ろうとしたため使者は逃走しました。孤立した武時は鎮西探題に攻め込みますが、探題軍との戦いに敗北し、子の菊池頼隆をはじめとする一族と共に討ち死にしました。享年42歳。一族200名あまりの首が犬射馬場に晒されるという悲惨な結末を迎えました。

武時の挙兵は、京都から派遣されていた僧侶・良覚によって『博多日記』に記録されました。武時が探題での裁判に敗訴していたことが、挙兵の遠因の一つであったとも考えられています。武時の性急な挙兵は少弐氏や大友氏の支持を得ることができず、結果として自滅する形となりました。しかし、この挙兵は九州における倒幕運動の契機となり、その約2ヶ月後の5月22日に鎌倉幕府が滅亡すると、その3日後には少弐貞経や大友貞宗ら九州の武士たちが倒幕側に転じ、鎮西探題を滅ぼしました。

武時の曾孫である菊池武朝が著した『菊池武朝申状』によると、元弘の乱後の論功行賞の場で、楠木正成は武時の功績を強く推薦したとされています。正成は、多くの武将が生き残る中、武時だけが勅命によって命を落としたことを挙げ、その忠義と功績を第一に評価すべきだと主張しました。この正成の言葉に後醍醐天皇は深く感じ入り、武時の功績を高く評価しました。この「忠厚」という言葉については、「忠義」の意味とする説と、当時の用法から「忠功」、つまり戦での功績を意味するという説があります。武時の後を継いだ菊池武重は、その功績を認められ、肥後一国を与えられました。

武時は、鳳儀山聖護寺の建立に際し、開基として招かれた大智禅師と親交を深め、師友関係を築きました。武時自身も求道心に厚く、一族と共に大智禅師のもとで参禅に励みました。その中で、長男の武重は大智禅師から『仮名法語』と『十二時法語』を授かっています。また、福岡県福岡市の菊池神社と熊本県菊池市の菊池神社では、武時が主祭神として祀られています。武時は子沢山で、頼隆と武重の他にも10数人以上の子がいたと伝えられています。江戸幕末の画家である菊池容斎は、武時の子孫であるとされています。

武時は、没後570年近く経った1902年（明治35年）に、明治天皇より贈従一位を追贈されました。また、同時に子の菊池武重と菊池武光も贈従三位を追贈されています。

武時の生涯は、その短いながらも激動に満ちたものであり、その忠義と行動力は、後世に高く評価されています。

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