北條美智留

北條美智留：舞台と声の表現者

北條美智留（ほうじょう みちる、1930年2月9日 - 2018年9月6日）は、日本の女優、声優として幅広い分野で活躍した人物です。劇作家、著述家であった北條秀司を父に持ち、幼い頃から演劇の世界に触れて育ちました。その才能は舞台だけでなく、声優としても開花し、特に少年役で多くのファンを魅了しました。

生い立ちと演劇との出会い

神奈川県足柄下郡小田原町（現在の小田原市）で生まれた北條美智留は、父の仕事の関係で東京、そして戦時中は箱根へと移り住みました。幼少期から父の執筆活動を手伝う傍ら、劇団俳優座の養成所に通い演劇の基礎を学びました。父の仕事の関係で、新国劇や劇団若獅子などの舞台にも立ち、舞台女優としてのキャリアをスタートさせます。初舞台はベルトルト・ブレヒト作『第三帝国の恐怖と貧困』での男の子役でした。その後、劇団新人会の立ち上げにも参加し、活動の幅を広げていきます。

声優としての才能開花

1957年、吹き替え版『名馬チャンピオン』で少年役を演じたことがきっかけとなり、声優としての才能を開花させます。特に、1957年から1966年まで放送された『名犬ラッシー』でのジェフ少年役は、北條美智留の代表作となり、多くの人々に愛されました。その後も『落ちた偶像』など数々の作品に出演し、吹き替えやCM、アニメの声優としても活躍しました。少年役を演じる際には、自身の声質を意識するよりも、「少年の心になりきる」ことを大切にしていたといいます。

晩年の活動と父の遺産

1980年代には舞台活動に専念するため声優活動を引退しますが、舞台女優としての活動も後進の育成指導のために徐々に減らしていき、1996年に父の死去を機に引退しました。女優引退後は、自宅で父の遺品と著作物の管理を行っていました。2003年からは東海大学情報史料学研究所の協力のもと、父の著作物の展示会や演劇を開催し、イベントの監修などに携わるようになります。晩年は、東海大学の研究員と共に自宅で父の遺品や著作物の管理、展示会や舞台作品の監修、講演などを中心に活動していました。

人物像とエピソード

趣味はゴルフ、書道、皮染色工芸と多才でした。俳優の緒形拳とは、養成所の同期生の兄弟がいたことや、緒形自身が北條家に居候していた時期があったなど、非常に親しい間柄でした。声優としての活動については、自身の声が「あまり少年的ではない」としながらも、13歳から18歳くらいの少年役が「やりやすい」と語っています。
また、『名犬ラッシー』出演時には、放送局との間で「それ以外の作品には出演しない」という趣旨の契約を結んでいたというエピソードもあります。再放送の際には、吹き替えの再録音が企画されたものの実現しなかったそうです。このことについて北條は、「録音技術が向上しても、当時の迫真力は超えられない」と語り、機械的な演技になることへの懸念を示していました。

主な出演作品

映画
ひめゆりの塔（1953年） - 嘉敷米子 役
森は生きている（1956年） - 八月 役
夜の鴎（1957年） - かく子 役

テレビドラマ
小さな客（1953年、NHK）
拳銃と讃美歌（1954年、NHK）
聖夜の街角（1954年、NHK）
幸福な王子（1960年、NHK）

テレビアニメ
エイトマン（1963年、シン博士）
0戦はやと（1964年、東隼人）
冒険少年シャダー（1967年、シャダー）
鉄腕アトム（1980年 - 1981年、幼年期のアトラス）

吹き替え
テレビドラマ
走れ！名馬チャンピオン／名馬チャンピオンの冒険（1957年、リッキー・ノース）
名犬ラッシー（1957年 - 1966年 - ジェフ・ミラー）
ライフルマン（1960年 - 1963年、マーク・マケイン）
歌って踊って恋をして（1964年）
逃亡者（1964年）
映画
落ちた偶像
ブルックリン横丁（ニーリー）※NHK版
夜の道（ジョーイ）
アニメーション
ロッド・ロケット（ロッド）
科学少年J.Q（J.Q.漂流記）（ハジ）
雪の女王（カイ）※劇場公開版・NHK版

テレビ番組
ディズニーランド
人形劇
コーサラの王子（1964年）
空中都市008（1969年 - 1970年、クリス）
今晩はメイコです

主宰・展示会監修 等
劇作家 北條秀司展（2003年）
北條秀司の舞台（2004年）
北條秀司をめぐる人びと（2007年）
劇作家北條秀司 箱根への憶（おも）い（2008年）
* 王将 －坂田三吉の生涯－（2009年、2011年）

2018年9月6日、北條美智留は88歳で急逝しました。生涯独身でした。その生涯は、舞台女優、声優として多くの人々に感動と喜びを与え、また父の遺産を次世代に繋ぐ活動にも尽力しました。彼女の功績は、日本の演劇史、声優史において、いつまでも語り継がれるでしょう。

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