北海道北見バス

北海道北見市に本社を置く北海道北見バス株式会社は、主にオホーツク管内において路線バスおよび貸切バス事業を営む企業です。その設立は太平洋戦争中の事業者統合に遡り、幾多の変遷を経て現在に至ります。

前身と戦時統合

大正末期から昭和初期にかけて、網走管内では多くのバス事業者が誕生しました。しかし、設備の未整備や小規模経営、物資不足などにより安定した運行が困難な状況でした。こうした背景を受け、北海道庁は1942年（昭和17年）10月、戦時統合の要綱を発表。網走管内の13事業者中12事業者が統合し、「北見乗合自動車株式会社」が1943年（昭和18年）5月28日に営業を開始しました。この統合で中心的な役割を担ったのは、野付牛自動車株式会社や湧別自動車合資会社などでした。

戦後の困難と再出発

終戦を迎えた北見乗合自動車は、車両の劣化や燃料不足といった深刻な問題に直面します。運行がままならない状態でしたが、海軍航空隊から車両を譲り受け部品を転用するなどして活路を見出しました。粗悪な燃料や木炭燃料車の利用を経て、1950年（昭和25年）頃には燃料供給が安定し、運行状況は改善されました。また、冬季の積雪による運休も大きな課題でしたが、除雪体制の整備が進み、徐々に冬期運行率も向上しました。1946年（昭和21年）9月20日には「北見バス株式会社」へ商号を変更しています。

この時期には、統合された一部地域の事業者が分離独立する動きも見られました。1950年（昭和25年）には藻琴乗合、1952年（昭和27年）には網走バスが北見バスから独立し、それぞれが地域における交通を担うことになります。

東急グループ時代

1959年（昭和34年）5月21日、北見バスは東京急行電鉄（東急）の傘下に入り、東急グループの一員となりました。これは、当時北見市長であった伊谷半次郎と東急総帥の五島慶太との間の関係が影響したとされています。東急グループ入り後、北見バスは厳格な労務管理体制が導入され、1960年代には労働争議が発生し、労働組合が分裂するなど大きな混乱が生じましたが、その後収束に向かいました。東急は経営の多角化も推進し、不動産事業への進出や、子会社を通じたスーパーマーケット事業などを展開。北見市内には関連企業が多く進出し、「東急の城下町」とも称されるようになりました。

路線網の拡大と縮小

設立当初は各地の事業者が寄せ集められたため路線が連続していませんでしたが、戦後徐々に路線網の整備が進み、北見市内だけでなく留辺蘂、美幌、津別、遠軽、紋別方面への長距離路線や観光路線が開設されました。特に都市間バスとして、1987年（昭和62年）に旭川方面への「特急石北号」、1990年（平成2年）に札幌方面への「高速えんがる号」、1991年（平成3年）に札幌方面への夜行便を含む「ドリーミントオホーツク号」が開設され、都市間輸送において重要な役割を担うようになります。これらの路線はJRとの競合もありましたが、運賃やサービス面で対抗し、利用客を増やしました。

しかし、1960年代後半からの自家用車の普及や地域社会の過疎化により、一般路線バスの乗客は減少傾向が続きました。採算が悪化した路線は廃止が進み、多くの過疎地路線や主要道路から外れる枝線系統が影響を受け、自治体による代替バスへ引き継がれるケースが増加しました。これに伴い、各地の営業所や駐車所も閉鎖されました。

自主再建の断念と新会社への移行

慢性的な赤字経営に悩まされていた北見バスは、1998年（平成10年）に事業の抜本的整理を決定しました。沿線人口の減少やモータリゼーションに加え、バブル崩壊後の関連事業の不振が経営を圧迫し、累積赤字が膨らんでいました。経営再建のため、バス事業は新たに設立される会社へ、不動産事業は関連会社へ譲渡する方針を打ち出しました。沿線自治体への出資要請は実現しませんでしたが、東急が100%出資する形で「北海道北見バス株式会社」が同年10月15日に設立され、12月15日からバス事業を引き継ぎ営業を開始しました。旧北見バス株式会社は1999年（平成11年）3月31日に解散しました。

新会社移行後も、一般路線の乗客減少傾向は続き、国庫補助対象外となる路線が増加。一部の自治体からの補助金供出が困難になったこともあり、佐呂間町や遠軽町からの路線撤退を余儀なくされるなど、厳しい状況が続きました。

東急グループ離脱と地元資本化、そして新たな展開

東急は経営資源の集中などを理由に、2009年（平成21年）10月1日付で北海道北見バスを含む地方バス事業8社の株式をジェイ・ウィル・パートナーズに関連会社へ譲渡し、東急グループから離脱しました。その後、北海道北見バスの経営陣は2011年（平成23年）7月、ジェイ・ウィル・パートナーズからの株式買い戻しに成功し、52年ぶりに純粋な地元資本による運営体制となりました。

しかし、事業承継の難しさなどから、2020年（令和2年）8月31日には札幌観光バスの完全子会社となりました。さらに、2025年春には旭川電気軌道との資本業務提携を予定しており、地域交通事業者間の連携を深める動きを見せています。

現在の事業と車両

現在の主な事業所は北見本社営業所のほか、美幌営業所、遠軽営業所があります。路線バスは北見市内を走る均一運賃の市内線のほか、郊外路線、札幌や旭川、釧路への都市間バスを運行しています。運賃収受は、かつて市内線で前乗り前払い方式でしたが、バスカード導入を機に中乗り後払い方式に変更されています。

保有車両は、いすゞ、UDトラックス、日野、三菱と多様です。一般路線車には沿線自治体のシルエットをデザインした緑色の「牛カラー」塗装が多く採用されています。都市間バスは東急マーキュリーカラーから、近年は新たな塗装デザインも登場しています。低床車両としてワンステップバスの導入が進められています。自社発注車両のほか、他社からの譲渡車両も活用しています。

北海道北見バスは、その長い歴史の中で、戦中戦後の混乱、大規模な事業者統合、東急グループ傘下での多角化と労働争議、過疎化による路線縮小、そして複雑な資本の変遷を経験してきました。地域にとって不可欠な公共交通機関として、変化する社会状況に対応しながら、今後もオホーツク管内の交通を支えていくことが期待されます。

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