北海道歌

北海道歌（ほっかいどうか）

「北海道歌」とは、過去に二度にわたり、北海道の主要な新聞社であった北海タイムス社が中心となって企画・発表された楽曲の総称です。これらの歌は、北海道の公式な歌（道歌）として制定されることを目指して作られましたが、残念ながらいずれも北海道庁によって正式に採用されることはありませんでした。

沿革

北海道歌の制作は、いずれも20世紀前半に北海道の中央部を地盤としていた地方紙『北海タイムス』を発行していた北海タイムス社（当時の社名）が主導しました。同社は北海道の振興やアイデンティティ確立に貢献する目的で、二度にわたって北海道歌の歌詞を公募し、専門家に作曲を依頼する企画を進めました。しかし、これらの取り組みは、いずれも北海道の公式なシンボルとしての「道歌」制定には結びつきませんでした。

1904年版

最初の北海道歌は、1903年（明治36年）に北海タイムス社が企画しました。同社は、優秀な北海道歌の歌詞を一般から広く募集するため、当時としては高額な懸賞金100円を用意しました。この公募は北海道内だけでなく、日本の内地にも及び、同年12月13日付の『東京朝日新聞』にも歌詞募集の広告が掲載された記録が残っています。この広告には、著名な作曲家である小山作之助に作曲を依頼する意向が明記されていました。

厳正な審査の結果、東京府から応募した藤沢古雪（本名：藤沢周次、1875年 - 1945年）による全10番からなる作品が見事に入選作として発表されました。作曲は事前の告知通り小山作之助が手掛けましたが、この時に完成した「北海道歌」は、残念ながら当時の北海道で広く歌われるには至りませんでした。商業用のSPレコードも制作・発売されることなく、その存在は一部にとどまりました。

1940年版

明治期に試みられた北海道歌の普及は叶いませんでしたが、北海タイムス社は時を経て1940年（昭和15年）に、再び公式な道歌の制定を目指す企画を立ち上げました。この年は皇紀二千六百年という記念すべき年にあたり、その記念行事の一つとして、6月9日付の紙面で北海道歌の歌詞公募が改めて開始されました。この時の賞金は入選작に500円、佳作に100円でした。

公募には多くの作品が寄せられ、審査の結果、岡部二郎の応募作が採用されることに決定しました。北海タイムス社の依頼により、日本の代表的な作曲家である山田耕筰がこの歌詞に曲をつけ、仁木他喜雄が編曲を担当しました。完成した歌詞と楽譜は、7月9日付の紙面で発表されました。

応募作品の選考過程には、北海道庁の視学官（教育担当官）も審査委員として参加していましたが、曲が完成した後も、北海道庁がこの歌を正式な道歌として採用したことを示す公式な資料は確認されていません。完成した歌は、8月13日に北海タイムス社内でSPレコードの試聴会が行われ、日本コロムビアから藤山一郎と二葉あき子のデュエットによる行進曲調のSPレコードとして発売されました。

しかし、発表から間もない1942年（昭和17年）には、戦時下の新聞統制により北海タイムス社が道内の他10紙と統合され、新たに北海道新聞社が発足するという大きな組織再編がありました。そして、その数年後の1945年（昭和20年）に太平洋戦争が終結し、社会情勢は大きく変化します。

戦後とその後の位置づけ

終戦後も、北海道の歌を新たに制定しようという動きは何度か持ち上がりました。しかし、1940年版の北海道歌は、歌詞が文語体で難解であることに加え、当時の戦時体制を反映した「興亜」「皇国」「聖旗」といった軍国主義的な言葉が多用されていたため、新しい時代の北海道の歌として使用を支持する声はほとんどありませんでした。結果として、この歌は公式な場での普及は叶わず、主に過去の流行歌や懐メロの一つとして記憶されるにとどまりました。

北海タイムス社が二度にわたり目指した公式な道歌の制定は、1966年（昭和41年）になってようやく実現しました。これは北海道開拓使設置100周年を記念する事業の一環として行われたもので、「光あふれて」を含む計三曲が北海道の歌として正式に定められました。

なお、1940年版の歌詞の1番と4番に登場する「十一州」という言葉は、1869年（明治2年）に明治政府が北海道に設けた行政区分である11の令制国（うち一つは千島国）に由来する、北海道の古い呼び名です。千島列島を含めない北海道本島のみを指して「十州島」と呼ぶこともありました。

1990年（平成2年）に発売された藤山一郎のCDボックスセット『藤山一郎大全集1/春の野、山の祭』（COCA-6731〜6741）のディスク3には、この1940年版の北海道歌が収録されており、その旋律の著作権保護期間は2015年（平成27年）12月31日に満了しています。

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