医王寺 (中津川市)

醫王寺（いおうじ）の歴史と信仰

醫王寺は、岐阜県中津川市落合に位置する浄土宗の寺院です。山号を瑠璃山と称し、知恩院の末寺としてその歴史を刻んできました。創建年は不明ですが、かつては天台宗の巨刹であったと伝えられています。特に、山中薬師とも呼ばれ、古くから子供の虫封じにご利益があるとされ、各地に薬師講が設けられるほど、厚く信仰されてきました。

寺に伝わる「薬師如来縁起」によると、奈良時代に疫病が流行した際、聖武天皇の勅命を受けた行基が諸国を巡り、各地に仏像を安置したのが始まりとされています。この時、行基は夢のお告げにより、この地に薬師如来を安置し、衆生の病苦を救済することを決意したとされています。醫王寺は、御嵩の願興寺、奥三河の鳳来寺と並び、三薬師の一つとして数えられています。

しかし、その歴史は平穏ではありませんでした。保元・平治、文治・元暦の兵火によって焼失し、一時衰退しました。その後、再興を果たすも、戦国時代に再び戦火に見舞われ、中絶してしまいます。天文13年（1544年）には廃寺となっていましたが、正誉存徹によって浄土宗の寺院として再興されました。江戸時代には、京都知恩院の直系寺院として、その名を知られるようになりました。

天明6年（1786年）には火災に見舞われ、再び焼失しますが、享和元年(1801年)には再建され、多くの人々が訪れるようになりました。境内では句会も催され、落合宿の脇本陣当主であった塚田彌左衛門光富の句が額にして本堂に掲げられています。島崎藤村の小説『夜明け前』にもその様子が描かれており、素朴な信仰の姿が伺えます。大正15年（1926年）には本堂の改築や書院、玄関の新築が行われ、現在の姿に近いものとなりました。正面扉には、かつて中山道を往来した旅人の落書きが残されています。昭和36年（1961年）には庫裡が再建され、現在に至っています。

寺宝と境内

醫王寺には、数多くの寺宝が伝えられています。本尊の薬師如来は、行基の作とされ、厨子入りの秘仏として安置されています。御前立には、薬師如来立像と日光・月光菩薩像が安置され、左右には彩色された十二神将像が並んでいます。また、下馬庚申と呼ばれる庚申像も安置されています。これらの仏像は、薬師三尊を中心に、四天王や十二神将が守るという、厳かな構えとなっています。その他にも、釈迦如来像や阿弥陀如来像、浄土宗の祖である善導や法然の像も安置されています。

境内には、かつて木曽義仲が植えたと伝えられる樹齢300年の枝垂桜がありましたが、伊勢湾台風によって倒れてしまいました。現在は、その若木が植え継がれています。また、境内には、2本の松がそびえ立ち、その下には三重石塔が建てられています。その他にも、北部耕地整理組合完成記念碑や、徳本上人の名号碑、弘法大師像を祀る弘法堂、稲荷神社、地蔵堂などが点在しています。奥庭の池には、松尾芭蕉の句碑も建てられており、当時の俳諧文化を偲ぶことができます。

狐膏薬の伝説

醫王寺の周辺地域では、かつて「狐膏薬」という特効薬が有名でした。この膏薬は、刀の切り傷によく効くとされ、醫王寺の薬師如来の加護によって作られたという伝説が残っています。十返舎一九の『木曾街道続膝栗毛』にもこの膏薬が登場しており、その効能書きが医王寺に残されています。

醫王寺は、長い歴史の中で、様々な困難を乗り越え、多くの人々の信仰を集めてきました。その境内には、古くからの信仰の形跡が今もなお残っています。醫王寺は、単なる寺院としてだけでなく、地域の歴史や文化を語る上で、重要な存在と言えるでしょう。

もう一度検索