十字架を担うキリスト (ティツィアーノ、サン・ロッコ大同信会)

十字架を担うキリスト

『十字架を担うキリスト』（伊: Il Cristo portacroce, 英: Christ Carrying the Cross）は、ルネサンス期のヴェネツィア派を代表する画家、ティツィアーノ・ヴェチェッリオあるいはジョルジョーネによって1506年から1507年の間に制作されたと考えられている油彩画です。この作品は、『新約聖書』の福音書に記された、イエス・キリストが十字架を背負い、処刑の地ゴルゴダの丘へと向かう場面、あるいは「エッケ・ホモ」（この人を見よ）の場面を主題としています。

この絵画は、その芸術的な価値だけでなく、奇跡的な性質を持つとされ、長きにわたり崇拝と信仰の対象となってきました。そのため、数多くの歴史的な文献にも言及されています。現在、この作品はヴェネツィアのサン・ロッコ大同信会に所蔵されています。また、プラド美術館には異なるバージョンが2点、エルミタージュ美術館には1点が所蔵されており、その人気と重要性を示しています。

主題

福音書によると、キリストはユダヤ属州の総督ピラトの官邸に連行された後、鞭打ちの刑を受け、茨の冠を被せられて嘲笑されました。その後、キリストは処刑場所であるゴルゴダの丘まで、自ら十字架を背負って歩かされました。福音書の一部では、キリストが途中で力尽きたため、北アフリカのキュレネ出身のシモンが代わりに十字架を背負ったとされています。

作品の特徴

この絵画では、十字架を肩に担いだ半身像のキリストが描かれており、彼の首には死刑執行人が縄を巻き付けています。背景は暗く、キリストは画面右側に、2人の死刑執行人は左端に配置されています。キリストは、見る者を優しく見つめ返す憂いを帯びた表情を浮かべています。また、キリストの背後の暗がりには、キュレネのシモンと思われる白い髭を生やした人物が描かれています。

死刑執行人たちの厳しい横顔は、かつてヴェネツィアのコレクションにあったとされるレオナルド・ダ・ヴィンチのグロテスクな素描を参考にしたと考えられています。十字架を背負うキリストという主題は、イタリア美術では古くから一般的でしたが、ティツィアーノはドイツや北ヨーロッパから北イタリアに導入された、被写体に「クローズアップ」した構図を採用しています。

制作年代は、1510年頃と考えられています。絵画には、ティツィアーノとジョルジョーネ双方の特徴が見られます。人物の輪郭がぼやけて見えるスフマートの技法や、色彩の不均一さはジョルジョーネの作品によく見られます。一方で、登場人物の力強さや出来事への積極的な参加は、ジョルジョーネの瞑想的な作風とは異なり、ティツィアーノの特徴を示しています。この作品は、ロレンツォ・ロット、ジョヴァンニ・ベッリーニ、アンドレア・ソラーリオなど、ヴェネト地方やロンバルディア地方の多くの画家に影響を与えました。

帰属を巡る議論

作品の帰属については、初期の資料から矛盾が見られます。ジョルジョ・ヴァザーリは、『画家・彫刻家・建築家列伝』の初版と第2版でジョルジョーネの作品としましたが、第2版の「ティツィアーノ伝」ではティツィアーノの作品とし、「多くの人がジョルジョーネの作品と考えている」と付け加えています。ティツィアーノとジョルジョーネは、いずれも教会と同信会を維持する組合と関係があり、特にジョルジョーネは組合員であった画家ヴィンチェンツォ・カテーナと親しい友人でした。

その後の研究では、フランチェスコ・サンソヴィーノ、カルロ・リドルフィ、マルコ・ボスキーニなどがティツィアーノの作品と見なしています。一方で、アンソニー・ヴァン・ダイクは1620年代初頭にヴェネツィアを訪れた際、この作品をジョルジョーネの作として模写しています。

現代の研究者たちの意見も依然として分かれています。19世紀末になって、ジョルジョーネに帰属されたことで論争が再燃しました。ティツィアーノに帰属を支持する研究者は、北方写実主義やジョヴァンニ・ベッリーニの影響、人物群の激しいドラマ性、そして構図の中に押し込まれているように見える2人の横向きの人物の配置を指摘しています。一方、ジョルジョーネの作とする研究者は、アカデミア美術館所蔵の『老女』といったジョルジョーネの他の作品との様式上の類似性や、死刑執行人に首を締められ、再び試練に引き戻される前の、一息ついたキリストの穏やかながらも激しい表情を強調しています。

額縁とルネット

天蓋を備えた額縁はタベルナクル型と呼ばれ、ルネットとともに、この絵画よりも少し後の1520年頃に制作されたと考えられています。当初、額縁はシンプルな意匠で青色に塗装されていましたが、後に装飾が施され、鍍金されました。ルネットには、父なる神と天使たちが描かれており、父なる神の周囲の天使たちは、梯子など受難の道具を持っています。このルネットは、ティツィアーノとその工房、あるいはティツィアーノの工房の作と考えられています。

来歴

この絵画は1955年までサン・ロッコ教会に所蔵されていましたが、絵画が主祭壇近くの柱の上に飾られていたのか、それとも脇の礼拝堂にあったのかは、正確には分かっていません。

ギャラリー

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関連作品

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脚注

[脚注は省略]

参考文献

ジェイムズ・ホール『西洋美術解読事典』高階秀爾監修、河出書房新社（1988年）
Boschini, Marco (1674). Le ricche miniere della pittura veneziana
Fregolent, Alessandra (2001). Giorgione. Milan: Electa. pp. 114–115. ISBN 88-8310-184-7
Sassu, G. (2004). Giorgione. I capolavori. Milan
Quintavalle, A.C. (15 March 1993). “Quando Tiziano voltò le spalle alla luce di Giorgione”. Corriere della Sera.
Fregolent, Alessandra (2001). Giorgione. Milan: Electa. pp. 110, 114. ISBN 88-8310-184-7

外部リンク

* サン・ロッコ大同信会公式サイト, ジョルジョーネ

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