十羅刹女

十羅刹女とは

十羅刹女（じゅうらせつにょ）は、仏教における天部、特に法華経に登場する10柱の女性の鬼神です。彼女たちは、鬼子母神と共に法華経の信仰者を守護する善神とされています。法華経の「陀羅尼品」にその名が記されており、それぞれが独特の性格と役割を持っています。

十羅刹女の概要

十羅刹女は、単なる鬼神ではなく、それぞれが菩薩や如来を本地とする高位の存在です。彼女たちは、法華経を信仰する者を守護すると誓っており、その姿は恐ろしい鬼女である一方で、慈悲深い側面も持ち合わせています。

以下に、十羅刹女の名前と、その本地、特徴について、『妙法蓮華三昧秘密三摩耶経』の説を基に説明します。

藍婆（らんば）：衆生を束縛し殺害することから名付けられました。その本地は上行菩薩です。
毘藍婆（びらんば）：衆生の和合を妨げることから名付けられました。龍王のように円満な姿で、大海に向かう様が例えられます。右手には風雲を持ち、左手には念珠を持っています。その本地は無辺行菩薩です。
曲歯（こくし）：上下に曲がった歯を持ち、恐ろしい印象を与えることから名付けられました。その本地は浄行菩薩です。
華歯（けし）：上下に整然と並んだ美しい歯を持つことから名付けられました。その本地は安立行菩薩です。
黒歯（こくし）：黒く染まった歯を持ち、恐ろしい印象を与えることから名付けられました。その本地は釈迦如来です。
多髪（たほつ）：豊かな髪を持つことから名付けられました。その本地は普賢菩薩です。
無厭足（むえんぞく）：衆生を殺害しても飽き足らないことから名付けられました。その本地は文殊師利菩薩です。
持瓔珞（じようらく）：手に瓔珞を持っていることから名付けられました。その本地は観世音菩薩です。
皐諦（こうたい）：天上と人間界を自由に行き来できることから名付けられました。法華十羅刹女法においては、膝を立てて座り、右手に裳、左手に独鈷を持つ姿で描かれます。その本地は弥勒菩薩です。
奪一切衆生精気（だついっさいしゅじょうしょうけ）：一切の衆生の精気を奪うことから名付けられました。その本地は多宝如来です。

法華経における役割

法華経では、十羅刹女は釈迦の説法を聞いて成仏の可能性を知り、法華経を信じ、伝える者を守護することを誓います。彼女たちは、法華経を信仰する者を守り、その教えを広める上で重要な役割を担っています。

異説と研究

十羅刹女の名前や数は、文献によって異なり、八大羅刹女や十二大羅刹女といった名前も見られます。孔雀経には七十二羅刹女が登場するなど、様々なバリエーションが存在します。法華経に登場する羅刹女については、その出所が不明な点が多く、現在も研究が進められています。梵本の法華経を日本語訳した岩本裕は、他の仏典にもラクシャシーやヤクシニーとして、ランバーなどの名が見られることを指摘し、文化史的に特別な意義はないとしています。

神仏習合と十羅刹女

神仏習合の時代には、十羅刹女は仏教の枠を超え、独自の解釈が加えられました。以下にその例を挙げます。

神楽：石見神楽の演目「十羅」では、十羅刹女はスサノオの末娘として登場します。アマテラスとスサノオの誓約で生まれた三女神のうち、三女のタギツヒメとされています。物語では、彦羽根という鬼神と十羅刹女が戦う様子が描かれます。
謡曲：謡曲「大社」にも神仏習合した十羅刹女が登場し、舞を披露します。この謡曲では、十羅刹女はスサノオが龍女と契りを結んで生まれた娘たちという俗説が取り入れられています。

十羅刹女社

東京都内には、十羅刹女を祀る神社も存在します。例えば、長崎神社は神仏習合期に「十羅刹女社」と呼ばれていました。また、春日神社には、別当寺だった寿福寺の敷地内に十羅刹女神祠があります。

まとめ

十羅刹女は、仏教の経典に登場する鬼神でありながら、菩薩や如来を本地とする高位の存在です。法華経の信仰者を守護する役割を持ち、神仏習合の過程で、神楽や謡曲にも取り入れられ、多様な姿で人々に親しまれています。その複雑な歴史と信仰は、仏教文化における重要な側面を物語っています。

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