南スラヴ人

南スラヴ人：バルカン半島の歴史と文化の織りなす多様な民族

南スラヴ人は、主にバルカン半島に居住するスラヴ系民族の総称です。セルビア人、クロアチア人、ボスニア人、スロヴェニア人、マケドニア人、モンテネグロ人、ブルガリア人を含み、それぞれが独自の歴史と文化を育んできました。西スラヴ人や東スラヴ人とは異なる歴史的経緯をたどり、独自の言語グループである南スラヴ語群を形成しています。その歴史は、民族移動、宗教、そして近隣諸民族との複雑な関係によって彩られています。

南スラヴ人の起源は、現在のポーランド西部付近とされています。6世紀頃、彼らは二手に分かれてバルカン半島へと移動を開始しました。東ルートの集団は黒海沿岸を西進し、ワラキア地方を経てバルカン半島南部へと進出。西ルートの集団はカルパティア山脈を越え、パンノニア平原を経由して西バルカンへと移動しました。これらの移動過程で、様々な民族との混交が進み、独特の文化が形成されていきました。特に、モンテネグロ人はアルバニア人との、ブルガリア人はブルガール人（テュルク系）との混交が顕著です。

7世紀に入ると、初期のスラヴ人入植の後、セルビア人、クロアチア人、ブルガール人がバルカン半島に定着し、南スラヴ諸国の形成に重要な役割を果たしました。セルビア人とクロアチア人は西スラヴ系であり、それぞれポーランド西部からバルカン半島に移住しました。ブルガール人は、トルコ語の影響を受けたイラン語を話す遊牧民であったと考えられており、スラヴ系住民との混交を経て、現在のブルガリア人の祖となりました。

ブルガール人は7世紀に第一ブルガリア帝国を建国、865年には南スラヴ人として初めてキリスト教を国教化し、キリル文字を創り出しました。その後、東ローマ帝国との抗争を経て、オスマン帝国の支配下に置かれました。スロヴェニア人はカランタニア公国を建国しましたが、フランク王国などに併合され、様々な支配下に置かれました。クロアチアは8世紀以降、複数の公国を経て10世紀に王国となりましたが、ハンガリー王国との同君連合を経て、ハプスブルク君主国やオスマン帝国などの支配下に置かれました。セルビアは複数の小国家を経て王国、帝国を形成しましたが、15世紀にオスマン帝国に征服されました。ボスニアは10世紀に前封建的な国家を形成し、14世紀に独立王国を築きましたが、15世紀にはオスマン帝国の支配を受けました。15世紀から19世紀にかけて、ドゥブロヴニク共和国とモンテネグロのみが事実上独立を維持しました。

19世紀末から20世紀初頭にかけて、バルカン戦争と第一次世界大戦を経て、オスマン帝国とハプスブルク帝国が崩壊しました。南スラヴ人は、ブルガリア王国とセルビア人・クロアチア人・スロヴェニア人王国（後のユーゴスラビア王国）という二つの王国に統合されました。第二次世界大戦後、ユーゴスラビア社会主義連邦共和国が成立、その後、ユーゴスラビアの解体により、ブルガリア、北マケドニア、セルビア、モンテネグロ、ボスニア・ヘルツェゴビナ、クロアチア、スロヴェニアの7つの独立国家が誕生しました。

南スラヴ人の宗教は、正教会、カトリック、イスラム教など多様です。ブルガリア人、マケドニア人、セルビア人、モンテネグロ人は主に正教会信徒であり、スロヴェニア人、クロアチア人はカトリック信徒が多いです。ボスニア人など、イスラム教徒も多いのが特徴です。古くからの土着信仰も、現代の宗教と混ざり合って残っています。

南スラヴ人は、ディナール人種に属し、Y染色体ハプログループIが高頻度です。元来のスラヴ系言語話者はハプログループR1aが多いとされていますが、バルカン半島では言語交代が起こったことが考えられます。

南スラヴ人は、複雑な歴史的経緯と民族移動を経て、バルカン半島に独自の文化圏を形成した民族集団です。多様な言語、宗教、そして遺伝的背景を持つ南スラヴ人の歴史と文化は、ヨーロッパの歴史を理解する上で重要な要素となっています。

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