南下沼駅

南下沼駅：消えた秘境駅と、その周辺の物語

北海道の北部に位置する幌延町。かつて、この地にJR北海道宗谷本線「南下沼駅」が存在していました。1957年2月1日、幌延駅と下沼駅の中間に「南下沼仮乗降場」として開業、その後1987年4月1日に駅に昇格したものの、利用者の減少により2006年3月18日、廃駅となりました。

南下沼駅は、いわゆる秘境駅として知られていました。駅舎はなく、単式ホーム1面1線のシンプルな構造で、無人駅でした。ホームは線路の南西側にあり、稚内方面へ向かうと左手に見えました。ホームへのアクセスは、稚内方（西側）のスロープを利用する必要がありました。待合所はありましたが、それはトタン張りの簡素なものでした。

駅名の由来は、その所在地にあります。下沼の南側に位置していたことから「南下沼」と名付けられました。開業当初から、近隣の小中学校の通学路として利用されていましたが、これらの学校は1982年に閉校。通学生の減少が、駅の利用者減少の一因となったと考えられています。1992年度には、1日あたりの乗降客数が0人という記録も残っています。廃止直前には、1日5往復の普通列車のうち、朝夕の2往復しか停車しませんでした。

駅周辺には、興味深い歴史や伝説が残されています。駅の少し上り方向（名寄方面）には、かつてトンネルが存在していました。このトンネル、列車が通る際に「男女の幽霊が出没し、ヒソヒソ話をする」という噂が広まり、恐れられたため、後に切通しに変更されたそうです。このトンネルの切通し化工事の際に起きたとされる、人夫夫婦の悲劇も語り継がれています。現在でも、夜になると「下駄の足音が聞こえる」「見張り所の戸を叩く音がする」といった怪談が残されています。切通しの西側には、地蔵尊が祀られています。

南下沼駅へのアクセスは、国道40号（天塩国道）や北海道道972号浜里下沼線を経由することになります。駅周辺はサロベツ原野が広がり、自然豊かな環境でした。かつての幌延町立下沼小中学校跡地も、駅の近くにありました。

南下沼駅は、その短い歴史の中で、地域住民の生活を支え、そして、多くの物語を生み出しました。秘境駅としての魅力だけでなく、地元に伝わる怪談や、廃線後の静寂さえも、この場所の歴史の一部を形作っていると言えるでしょう。現在、駅舎は残っていませんが、その存在は、地域の人々の記憶の中にしっかりと刻まれています。

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