南原ダム

南原ダム

南原ダムは、広島県広島市安佐北区可部町にある一級河川・太田川水系南原川に建設された、中国電力株式会社が管理する発電用ダムです。このダムは、堤高85.5メートルの規模を持つロックフィルダムであり、揚水式水力発電所である南原発電所の下部調整池として機能しています。上部調整池である明神ダムとの間で水を往来させることで、最大62万キロワットという大規模な電力を生み出すことが可能です。

歴史的背景と建設

第二次世界大戦末期に原子爆弾による壊滅的な被害を受けた広島市は、終戦後、目覚ましい速さで復興と発展を遂げました。しかし、その急速な変化に伴い、電力需要は供給力を大幅に上回る状況が生じました。この電力不足に対応するため、中国電力は揚水発電所の建設を計画しました。揚水発電は、火力発電所や原子力発電所と連携しやすく、電力系統の安定化に大きく貢献できると考えられたからです。

建設予定地として選ばれたのは、電力の大消費地である広島市からわずか20キロメートル圏内にある当時の安佐郡可部町（現在の広島市安佐北区可部町）でした。この地点が有利とされたのは、1974年に運転を開始する島根原子力発電所へ電力を送るための22万ボルト送電線、山陰幹線（1973年完成）が既に経由しており、深夜の余剰電力を利用した揚水運転に必要な電源供給が容易であったためです。

開発計画では、南原ダムとそれに連なる明神ダムの二つのダムが建設されることになりました。ダムの形式としては、建設予定地の周辺から豊富な土砂や岩石が得られるという地理的利点を活かし、どちらもロックフィルダムが採用されました。これらのダムの建設が完了し、南原発電所は1976年（昭和51年）7月5日に商業運転を開始しました。これは、1968年に稼働を開始した新成羽川発電所に次ぐ、中国電力にとって二番目の揚水式発電所となりました。

周辺環境と活用

南原発電所が立地する南原峡は、広島市内で瀬戸内海に注ぐ太田川の支流である南原川によって形成された、美しい景観を誇る地域です。南原ダムへのアクセスは、山陽自動車道広島インターチェンジから国道54号可部バイパスを経由し、南原川の上流方向へ進む広島県道253号南原峡線をたどるルートが一般的です。発電所の心臓部は、南原ダム右岸側の地下深くに設けられており、一台あたり31万キロワットの容量を持つ水車発電機が二基設置されています。

南原峡は、1967年に広島県立自然公園に指定されるほど豊かな自然に恵まれた場所です。南原発電所の建設にあたっては、環境への配慮がなされ、天然の滝である加賀津の滝や石采の滝には、周辺の渓流水を導水するなど、自然景観の維持に努められました。南原ダムの下流には、中国電力の社内研修施設である南原研修所があり、体育館、野球場、テニスコート、プールなどの運動施設を地域住民にも開放しており、地域社会との連携を深めています。

一方、上池である明神ダムは南原ダムのすぐ上流に位置していますが、そこへ至る道路にはゲートが設置されており、関係者以外の車両通行は制限されています。これは、発電施設という特殊な場所であることや、自然環境保護のためと考えられます。南原ダム周辺は、電力供給という重要な役割を担いつつも、豊かな自然が保たれ、地域に開かれた施設も存在する複合的なエリアと言えます。

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