南沙織ベスト・コレクション

南沙織のキャリアを代表する楽曲群を収めたベストアルバム『南沙織ベスト・コレクション』は、1986年5月21日にCBSソニーよりリリースされました。この作品は、CDプレーヤーが一般家庭に普及し始めた時期に、レコード会社が展開した企画盤シリーズの一部として位置づけられています。実は、この1986年盤（規格品番：30DH-428）は、前年の1985年4月1日に発売された同名のアルバム（規格品番：30DH-219）を元にした改訂版にあたります。本稿では、これら二つのバージョンについて解説します。

当時、音楽メディアの主役がLPレコードからコンパクトディスクへと移行する大きな変化の中で、CBSソニーは「BEST COLLECTION」と銘打った一連のベストアルバムシリーズを企画・発売しました。このシリーズでは、主に1970年代から1980年代にかけて活躍した人気アーティストたちの代表曲を集めた作品が多数ラインナップされ、『南沙織ベスト・コレクション』もその中の一つでした。

1985年4月1日に発売された『南沙織ベスト・コレクション』（30DH-219）が、このシリーズにおける南沙織作品の原型となります。そして、翌1986年5月21日にリリースされた改訂版（30DH-428）では、アルバムのタイトルや収録曲目に変更はありませんでしたが、ディスクジャケットの写真とCDケースのサイズが新たな仕様へと変更されました。1985年盤は、そのリリース当時の音源資料として、国立国会図書館に所蔵されていることが確認できます。

このアルバムの特筆すべき点の一つは、その長い製品寿命です。デジタルマスタリング技術が進歩し、より音質の向上した新たなベストアルバムが2000年代以降に数多く登場する中でも、『南沙織ベスト・コレクション』は長きにわたり販売カタログに残り続けました。これは、当時のCDベスト盤として一定のスタンダードを確立していたことを示唆しています。

本作に収録されているのは、南沙織が1970年代から1978年にかけて発表したシングル曲を中心とした全15曲です。彼女のデビュー曲であり大ヒットとなった「17才」をはじめ、「潮風のメロディ」「ともだち」「純潔」「哀愁のページ」「早春の港」「傷つく世代」「色づく街」「ひとかけらの純情」「バラのかげり」「夜霧の街」「想い出通り」といった、作詞家・有馬三恵子と作曲家・筒美京平による黄金コンビが生み出した初期〜中期の代表曲が多数収められています。さらに、中里綴作詞、田山雅充作曲の「人恋しくて」、松本隆作詞、ジャニス・イアン作曲の「哀しい妖精」、そして作詞・作曲・編曲を尾崎亜美が手がけた「春の予感‐I've been mellow‐」など、彼女の音楽性の幅広さを示す楽曲も含まれています。これらの楽曲は、1971年から1978年までの彼女の軌跡をたどる選曲となっています。

収録曲の一つに興味深い誤植があります。2曲目に収録されている楽曲の正式なタイトルは「潮風のメロディ」ですが、1986年盤のCDに付属する歌詞カードや、CDケース裏面の曲目一覧においては、「潮風のメロディー」と末尾が伸ばし棒になった誤った表記が確認できます。一方で、CD盤のレーベル面に印刷された曲目リストでは、「潮風のメロディ」と正しく記載されています。これは、制作過程で生じた小さなミスではありますが、資料として記録しておくべき点です。

『南沙織ベスト・コレクション』は、CDという新しいメディアが登場した時代の空気の中で生まれ、南沙織の初期から中期にかけての輝かしいヒット曲を効率的に楽しめる一枚として、多くのファンに親しまれました。その後の高音質リマスター盤が登場してもなおカタログに残り続けた事実は、本作が持つ歴史的、あるいはスタンダードな価値を示していると言えるでしょう。彼女の魅力を手軽に知るための入門盤としても、また当時のCD文化を知る上でも、意義深い作品と言えます。

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