南部ルネサンス

南部ルネサンス：アメリカ南部文学の再興

1920年代から30年代にかけて、アメリカ南部で活況を呈した文学運動が「南部ルネサンス」です。この時代、ウィリアム・フォークナー、キャロライン・ゴードン、エリザベス・マドックス・ロバーツ、キャサリン・アン・ポーター、アレン・テート、テネシー・ウィリアムズ、ロバート・ペン・ウォーレンといった、後のアメリカ文学史に名を刻む多くの作家が輩出されました。彼らは、南北戦争後の南部社会を新たな視点で描き出し、アメリカ文学に多大な影響を与えました。

南部ルネサンス以前の南部文学

南部ルネサンス以前の南部文学は、南北戦争における南部連合の「敗北の大義」を美化し、英雄視する傾向が強かったです。これらの作品は、南軍兵士や市民の勇気、そして南北戦争以前の南部の牧歌的な社会像を理想化していました。この「敗北の大義」への強い郷愁は、第一次世界大戦までの南部文学の大きな特徴でした。

南部ルネサンスの三つの主要テーマ

南部ルネサンスの作家たちは、この「敗北の大義」への盲目的な信頼を覆し、新たな視点を提示しました。彼らの作品には、三つの主要テーマが貫かれています。

まず第一に、南部という土地の歴史的責任です。奴隷制度、再建期、そして南軍の敗北といった、暗い歴史と正面から向き合いました。第二に、南部の保守的な文化への着目です。家族、宗教、共同体といった伝統的な価値観の中で、個人がどのようにアイデンティティを保ち、生きていくのかを深く探求しました。そして第三に、人種問題です。南北戦争と奴隷制度から距離を置いた視点から、客観的に人種問題を描写しました。

さらに、彼らは近代的な文学技法、例えば意識の流れや複雑な物語構成を積極的に取り入れました。フォークナーの『死の床に横たわりて』はその好例です。

ウィリアム・フォークナー：南部ルネサンスの巨匠

南部ルネサンスの作家の中でも、ウィリアム・フォークナーは最も影響力があり、広く知られています。1949年にはノーベル文学賞を受賞し、その作品は今も世界中で高く評価されています。

新たな批判精神の台頭

南部ルネサンスの特徴は、既存の南部文学への批判精神です。「敗北の大義」を支える文学への反動として、新たな批判的な視線が生まれてきました。

1880年代以降、ジョージ・ワシントン・ケーブルやマーク・トウェインなど、一部の白人南部作家は、人種差別や黒人搾取を批判し、南部の美化されたイメージを解体し始めました。また、ジャーナリストや学者は、南部の支配層の文化的・知的な停滞を指摘しました。1903年には、ブッカー・T・ワシントンを高く評価した学者の発言が、白人南部社会に衝撃を与えました。

第一次世界大戦以前には、アフリカ系アメリカ人作家たちも、「敗北の大義」への批判を表明していました。チャールズ・W・チェスナットの小説などがその例ですが、当時は白人男性中心の文学界において、彼らの作品は十分に評価されませんでした。

南部ルネサンスは、南部文学における初めての、南部社会への批判的な運動でした。それは、既存の南部文学の伝統と、アウトサイダーによる視点の両方を内包していました。風刺作家H・L・メンケンのような人物も、南部の知的・文化的な停滞を痛烈に批判し、南部ルネサンス作家たちに影響を与えました。

「逃亡者」グループ：南部ルネサンスの中核

南部ルネサンスの始まりは、しばしば「逃亡者」グループに遡ります。「逃亡者」とは、第一次世界大戦後、テネシー州ナッシュビルで活動した詩人や批評家のグループです。ジョン・クロウ・ランサム、ドナルド・デイヴィッドソン、アレン・テート、ロバート・ペン・ウォーレンなどが、このグループの中心人物でした。彼らは共同で雑誌『逃亡者』を創刊し、南部ルネサンスを牽引しました。

南部ルネサンスの遺産

南部ルネサンスの影響は、1940～60年代の南部作家にも及んでいます。レイノルズ・プライス、ジェームズ・ディッキー、ウォーカー・パーシー、ユードラ・ウェルティ、フラナリー・オコナー、カーソン・マッカラーズ、ハーパー・リーといった作家たちが、南部ルネサンスの作家たちの影響を受け、独自の南部文学を創造しました。ハーパー・リーの『アラバマ物語』は、1961年にピューリッツァー賞を受賞し、20世紀を代表する南部小説の一つとされています。

南部ルネサンスは、アメリカ南部文学に新たな地平を開き、その後のアメリカ文学の発展に大きな影響を与えました。彼らの作品は、歴史と向き合い、伝統と革新を融合させた、普遍的なテーマを私たちに問いかけ続けています。

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