南関東ガス田

南関東 ガス田：知られざる日本のエネルギー資源

南関東ガス田は、千葉県を中心とする南関東一帯に広がる、日本最大の水溶性天然ガス田です。その規模は、茨城県、埼玉県、東京都、神奈川県にも及び、鉱床面積は約4,300平方キロメートル、埋蔵量は7,360億立方メートル、可採埋蔵量は3,685億立方メートルと推定されています。これは、日本国内で確認済みの天然ガス埋蔵量の9割を占めるという、非常に大きな資源です。

水溶性天然ガスとは

水溶性天然ガスとは、地下深くの地層において、地下水に溶け込んでいる天然ガスのことです。地表に近づき圧力が解放されると、水から分離して気体となります。主成分は都市ガスとして利用されているメタンであり、一部は地層中の古細菌によって生成されています。

南関東 ガス田の歴史と利用

南関東ガス田は、国内で産出される貴重な天然ガス供給源です。都市ガスとして供給を受ける家庭や事業所は、国際的な天然ガス価格の高騰の影響を受けにくいというメリットがあります。第二次世界大戦中には、帝国石油や日本天然ガスといった企業が、このガス田から採掘したメタンガスを原料に、ガソリンや航空燃料を製造し、軍や一般市民に供給していました。

ガス田開発と地盤沈下

かつては東京都内でも生産が行われていましたが、ガス採掘に伴う地下水の汲み上げが地盤沈下を引き起こしたため、現在は採掘が規制されています。現在では、千葉県の茂原地区を中心とした九十九里浜沿岸部が主な供給地となっています。地元では「上（うわ）ガス」や「野ガス」とも呼ばれています。関東天然瓦斯開発は茂原地区を鉱区としており、その埋蔵量は1,000億立方メートルと推定されています。

ガスは鹹水（かんすい）と呼ばれる地下水に含まれており、この鹹水は古代の海水が起源とされています。海水の2,000倍ものヨウ素を含んでいることが特徴で、これほど高濃度のヨウ素が存在する場所は世界的にも珍しいです。日本はチリに次いで世界第2位のヨウ素産出国となっています。ヨウ素の年代は4900万年前と推定されており、海底に堆積した海藻由来ではなく、数千万年かけて海底堆積物中に蓄積されたものが、プレートの沈み込みに伴い上総層群中に移動・蓄積したと考えられています。

ガス利用の制限と例外

近隣の多くの自治体では、条例により無許可でのガス利用が禁止されています。そのため、一般家庭では地元の都市ガス会社が精製した天然ガスを利用しています。ただし、千葉県内を中心に、条例制定以前から天然ガスを利用している家庭（約300世帯）は、例外的にガス利用が認められています。しかし近年は、工業用採掘の影響などで産出量が減少し、利用を停止する家庭が増えています。

ガス田発見の逸話

1891年（明治24年）には、千葉県大多喜町で醤油醸造業者が井戸を掘った際、「泡を含んだ茶褐色を呈する塩水」が湧き出し、その泡に煙草の火を投げ込んだところ、青白い炎を上げて燃え上がったという記録が残されています。古くからガス田地域では、天然ガスや塩水が湧き出し、作物に悪影響を与えることが知られており、湧き出る天然ガスは「燃ゆる気」、湧出する気配のある土地は「土気」と呼ばれていました。

ガス田を支える企業

南関東ガス田からガスを採掘・供給している主な企業は以下の通りです。

K&Oエナジーグループ
関東天然瓦斯開発
大多喜ガス
日本天然ガス
合同資源
伊勢化学工業

ガス田の構造

ガス田は、関東平野の基盤を構成する上総層群という地層の中にあります。特に、上総層群中部の国本層、梅ヶ瀬層、大田代層、黄和田層といった地層の地下水に天然ガスが溶け込んだ状態で存在しており、梅ヶ瀬層と大田代層でガス胚胎が大きいとされています。これらの地層は、約300万年前から約40万年前に海底で堆積したもので、砂岩、泥岩、凝灰質砂礫などから構成され、深度100mから2,000mに及ぶ広範囲に堆積しています。

地盤沈下問題

天然ガスの採掘は1930年代から本格化し、戦後には日本各地で行われました。南関東地域では、茂原市だけでなく、東京ガス田でも採掘が行われていましたが、東京都下町低地地域で発生した大規模な地盤沈下の主要原因が、東京ガス田における地下鹹水の揚水であることが判明しました。このため、東京都は1972年に民間企業から天然ガス鉱業権を買収し、地下水の揚水を全面停止しました。

ガス漏れ事故への注意

千葉県では、地表から天然ガスが湧出する地域があり、ガスによる事故が発生しています。事故を防ぐため、家屋の床下の基礎部分にガスを逃がす仕組みを設置している地域もあります。これは、減圧により鹹水から分離したメタンガスが地下水中で過飽和になり、遊離ガスとして地上に上昇してくることが原因です。

過去には、茂原市立茂原中学校、東京電力社員寮、九十九里いわし博物館、勝浦警察署大多喜幹部交番などで爆発事故が発生しています。

東京でも、地下開発に伴う事故が発生しており、東京都水道局送水管建設工事のシールドトンネル掘進中にメタンガスによる爆発事故が発生し、死傷者が出ています。また、温泉の大深度掘削に伴い、天然ガスが噴出する事故も多発しています。

まとめ

南関東ガス田は、日本のエネルギー資源として重要な役割を果たしていますが、地盤沈下やガス漏れ事故といった課題も抱えています。安全なガス利用のためには、適切な対策と注意が必要です。

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