反帝国主義・反スターリン主義

反帝国主義・反スターリン主義：日本新左翼運動を揺るがした革新的思想

1950年代、日本の新左翼理論家、黒田寛一によって提唱された「反帝国主義・反スターリン主義」は、日本新左翼運動に大きな影響を与えた思想です。略称は「反帝・反スタ」。この思想は、帝国主義とスターリン主義の両方を同時に打倒すべきとするもので、日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派（革マル派）、革命的共産主義者同盟全国委員会（中核派）、革命的共産主義者同盟再建協議会（中核派関西派）など、複数の新左翼組織の基本理論として受け継がれました。しかし、各派による解釈には差異が存在します。

黒田寛一の思想：マルクス・レーニン主義からの批判

黒田寛一は、「真のマルクス・レーニン主義」の観点から、スターリンによるマルクス主義の歪曲や世界革命への裏切りを批判しました。彼は、スターリン主義と帝国主義は同時に打倒されなければならないと主張し、「トロツキズムの克服」とも位置づけています。この思想では、当時のソ連を始めとする社会主義国家は、「社会主義体制」やトロツキーが定義した「官僚的に歪められ、堕落した労働者国家」ではなく、「赤色帝国主義」あるいは「国家資本主義」とみなされます。労働者は被支配階級であり、資本主義国家における支配階級が独占資本であるのと同様に、「スターリニストが支配する自称社会主義国家」の支配階級は「党官僚」であるとされました。

そのため、「反スターリン主義」は、ソ連や東欧諸国などの既存の社会主義を全否定する立場を取ります。共産党が権力に就いていない国においても、共産党の誤った理論や方針が革命の阻害要因となっており、既存の共産党は革命の敵として打倒すべき対象とされました。革命を実現するためには、既存の共産党に取って代わる新たな革命政党の建設が必要不可欠であると主張されました。

この思想は、ソ連を国家資本主義とみなす点で、イギリスのトニー・クリフなどの左翼共産主義と共通点がありますが、黒田は在野の共産党までもが「労働者階級の敵」であると規定する点で異なっています。革マル派と中核派は、この理論と運動は日本独特のものであり、世界の革命運動においても最も先進的であると自負していました。革マル派は「世界に冠たる反スタ主義（もしくは黒田思想）」、中核派は「日本革命を世界革命の突破口に」という表現を用いていました。また、両派は「世界革命」を最終目標に掲げていますが、国際革命組織に加盟したり、独自の国際組織を形成するのではなく、日本革命の成功によって世界に革命を広げるという方針を打ち出していました。

日本の新左翼とスターリン主義批判

日本の新左翼は、一部の毛沢東主義者を除き、スターリン主義を批判する立場にありました。共産主義者同盟は、スターリン主義は帝国主義の補完物であると捉え、帝国主義が崩壊すればスターリン主義も崩壊すると考えていました。しかし、スターリン主義を帝国主義と同等の打倒対象として明確に「反スターリン主義」を掲げたのは、革マル派と中核派です。彼らは、ソ連、中国、北朝鮮、ベトナム、キューバなどの既存の社会主義を労働者国家とは認めず、党官僚専制支配国家として打倒対象としました。そのため、コミンテルンの系譜に属する日本共産党も打倒対象とされました。

黒田寛一と本多延嘉の主張

黒田寛一は著書『革命的マルクス主義とは何か？』の中で、「帝国主義的段階におけるプロレタリアートの普遍的課題は反帝国主義であり、反スターリニズムは特殊的課題である。しかし、帝国主義とスターリニズムに基本的に分割された現代世界そのものを革命的に変革するための世界革命戦略が＜反帝国主義・反スターリニズム＞である」と述べました。反帝と反スタは直接的に統一されており、論理的に同時的な戦略であると強調しています。

中核派の最高指導者であった本多延嘉は、1972年の講演で「反帝国主義・反スターリン主義」を「現代世界の根底的変革にかかわる綱領的な立脚点」または「現代におけるプロレタリア革命の基本的戦略」と規定しました。世界は帝国主義と社会主義に分裂していますが、両者は平和共存的な関係にあるため、帝国主義の矛盾は爆発し、スターリン主義の破産があばかれ、世界体制の崩壊が進行していると指摘しました。そして、この時代に対応した革命戦略として「反帝・反スターリン主義の世界革命戦略」を確定する必要性を訴えました。

批評とソ連崩壊後の変化

中核派の清水丈夫は、革マル派の「反帝・反スタ」を批判し、三上治は「反帝国主義・反スターリン主義」を米ソの世界支配体制とそれを支える世界理念を否定し、世界社会主義を提起するものと解釈しました。栗原幸夫は、「前衛党神話の崩壊」が「六十年代」の幕を開き、「反帝国主義・反スターリン主義」が一政治党派のスローガンを超えて多くの活動家に共有されたと指摘しています。

ソ連崩壊後、「反スターリン主義」の位置付けは大きく変化しました。かつて革マル派はベトナム戦争について「スターリニストに軍服を着た労働者である米兵を殺させる（ゆえにベトナム戦争反対）」という立場、中核派は「北部ベトナムホー・チ・ミン政府=南ベトナム民族解放戦線不支持・ベトナム人民連帯」という立場をとっていました。しかし、90年代以降、革マル派はフランスの核実験に反対しポリネシア独立を支持するなど、かつては「CIAに支援された反共ゲリラ」と規定していたアルカイダなどのイスラム原理主義勢力を「反米勢力」と見なすようになりました。

まとめ

「反帝国主義・反スターリン主義」は、日本新左翼運動において重要な役割を果たした思想です。その思想の中核をなすのは、帝国主義とスターリン主義の同時打倒という主張であり、革マル派や中核派といった新左翼組織の基本理論を構成する重要な要素となっています。しかし、各組織における解釈やその後の展開には違いがあり、歴史的文脈の中で多角的に理解する必要があります。この思想は、冷戦構造や国際情勢の変化とともに変容を遂げ、現在に至るまでその影響を及ぼし続けています。

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