古市澄胤

戦国時代の多才な人物：古市澄胤の生涯

古市澄胤は、戦国時代における稀有な存在でした。大和国の土豪出身でありながら、僧侶として興福寺で修業を積み、武勇を振るい、文化人としても高い評価を得た人物です。その生涯は、戦乱の世を生き抜いた波乱に満ちたものでした。

若くして興福寺に入り、出家した澄胤は、叔父である古市宜胤のいる発心院で修行に励みました。やがて興福寺大乗院門跡の六方衆となり、寺における地位を確立していきます。しかし、兄の胤栄の隠居を機に俗世へと戻り、家督を相続することとなります。

応仁の乱では、興福寺衆徒を率いて活躍します。義父である越智家栄や畠山義就と手を結び、筒井順尊、十市遠清、箸尾為国ら敵対勢力を大和から追放、勢力基盤を拡大しました。その手腕は高く評価され、明応2年には、室町幕府政所執事の伊勢貞陸から山城国守護代に任命され、南山城の相楽郡と綴喜郡を治めることになります。山城国で発生した一揆を鎮圧し、その統治能力を見せつけました。その後は、細川政元配下の武将、赤沢朝経の大和侵攻に協力するなど、政治的にも重要な役割を果たしました。

大和国の半ばを支配する大和守護格となった澄胤は、「古市播磨法師」として知られ、6万石の古市城を築いて勢力を誇示しました。しかし、永正5年、細川澄元配下の赤沢長経との戦いにおいて敗走、自害して生涯を終えました。

澄胤は、戦国時代の成り上がり大名として知られていますが、その人物像は多面的な魅力に満ち溢れています。数百貫を賭ける博打を好むなど豪快な一面を持つ一方、神仏への信仰も深く、公家や高僧、芸能人たちとも交流を持つなど、幅広い交友関係を持っていました。茶の湯、謡、尺八を嗜み、連歌にも造詣が深く、文人としても著名であり、高い美意識を持っていました。連歌師の猪苗代兼載からは『心敬僧都庭訓』を受け、自作の連歌は宗祇選の『園塵』に採録されるほどの実力でした。西本願寺に伝わる名物の盆席「残雪」は、澄胤が奈良の町屋の屋根押さえに使われていた石の中から見出したものと伝えられています。

茶道との関わり：村田珠光との師弟関係

澄胤は茶道にも深く関わっており、村田珠光に師事し、その第一弟子となったことはよく知られています。古市一族は古くから「淋汗茶湯」と呼ばれる独自の茶会を行っていましたが、澄胤は珠光のもとで、より洗練された茶の湯の作法を学びました。珠光から送られた『心の文』は有名で、弟子である澄胤に、華美な茶会や闘茶といった遊びに囚われることなく、真の茶の湯の精神を追求するよう促す内容となっています。また、珠光による「お尋ねの文」は、澄胤の茶花に関する質問に対する返答で、師弟間の深い交流を物語っています。

『山上宗二記』には、「和州古市澄胤　数奇者、名人、珠光の一の弟子、名物其数所持の人也」と記されており、茶道の名人としてその名が挙げられています。澄胤の弟子には、珠光伝来の松屋三名物を所持した松屋久行がおり、茶道の家系が受け継がれていったことがわかります。

江戸時代には、澄胤の子孫である古市了和が、弓馬術・礼儀作法の名家である小笠原家総領家に茶道頭として仕えました。珠光から澄胤へと受け継がれた茶道や作法は、小笠原家の家風と融合し、小笠原家茶道古流として現在にまで伝えられています。

澄胤の生涯は、戦国時代の激動の時代を生き抜いた一人の武将、僧侶、そして文化人の物語です。その豪放磊落な生き様と、茶道への貢献は、後世の人々にも大きな影響を与え続けています。

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